悪意の不在
2022/12/25
ニューヨーク時代、
毎日のように遊んでいたアメリカ人の友人D君が
長期の予定でブラジルに旅立つことになりました。
心優しい彼は、MISUMIが寂しい思いをしないようにと、
日本人留学生ばかりが7〜8名ほど集まるパーティーに誘ってくれました。
生き馬の目を抜くニューヨークで、
日々文化の違う外国人たちと渡り合っていた私にとって、
それは、なんともいえない、ほっこりした時間。
実はそれまで、
できるだけ日本人の友だちをつくらないようにしていたこともあり、
ほとんど日本語を話さず暮らしていたのでした。
でもね。やっぱり、日本人同士は安心できる。
どんな話も、いちいち注釈つけることなく、
えーと、これってどうやって説明したらいいのかな?
なんて、悩むことなく、
「あ」なら「うん」、
つうと言えばかあ、
という具合で、ぽんぽん話題が盛り上がる。
D君が紹介してくれた人たちという安心感もありますが、
やっぱり日本人はお互いを信用しているようなところがあるんですね。
さて。
そこでいきなり、
「MISUMIちゃん、先日ライブ見たわ!
すっごいカッコよかった〜!」
と、話しかけてきたA子ちゃんという子がいました。
少し前に私がD君と一緒にやったライブを見に来たと言います。
いかにも素朴で、屈託のないようすで話しかけてくるA子ちゃん。
北陸のとある街の出身で、
こんなごく普通の感じの子もニューヨークにいるんだな、
と思ってしまうくらい、
どこにでもいる地方出身の女の子、という感じの子でした。
数日後、そのA子ちゃんからいきなり電話がかかってきました。
実はA子ちゃんの彼氏は音楽プロデューサー。
私のことを話したら、
日本人がそんな風に歌が歌えるなんて信じられない、
もしも本当なら、俺がプロデュースするから、
一度会いたいと言っている・・・
そんな訳で、A子ちゃんの彼、T・Jと会うことになったのです。
このT・Jとの出会いが、
私のニューヨーク・ライフを大きく変えました。
いやいや。シンデレラストーリーとは真逆です。
T・Jという人物はとんでもない食わせ物だったんですな。
移民局の仲間と組んで、
日本人女性からお金をだまし取り、悪事を重ねていたと、
後に、領事館にレポートしてはじめて知りました。
私自身、T・Jと会って、
お前はきっと成功するとさんざん持ち上げられたあげく、
やれ、パスポートを自分の仲間に預けろ、
レコード会社のおじさんたちに「サービス」しろ、
修行のため3ヶ月は誰にも会えないことを覚悟しろ・・などと、
とんでもないことを次々言われました。
冷静に聞けば、ばっかじゃないの?みたいな話ですが、
T・Jは、あの素朴なA子ちゃんの彼氏であり、
A子ちゃんはD君の友だち。
疑う気持ちが生まれたのは、T・Jと会った翌朝でした。
話を断ったら、それまでの優しい態度が豹変。
覚えてろよ、仕返ししてやる、などと脅かされ、
結局、バイオレンス映画の一場面さながらのシチュエーションで、
私はカナダに逃げ出すことになるわけです。
閑話休題。
今日のテーマは、私のストーリーではなく、A子ちゃんのお話です。
このA子ちゃん、
実は自分が女友だちとのパイプ役として、T・Jに利用されていたことに、
結局最後まで気づいていなかったのです。
素朴で悪気のないA子ちゃんは、
大好きな彼氏をお友だちに紹介したかっただけ。
そうして、彼女があまりに屈託のない子なので、
みんな彼女を信用し、彼氏と会ってみた。
まぁ、さすがに、お金を巻き上げられた子こそ、
まわりにはいませんでしたが、
とにもかくにも、私は酷い目にあいました。
日本領事館によれば、
このT・Jには、いつも日本人のガールフレンドがいて、
その子の友だちをカモにしていたそう。
そして、おそらく、ガールフレンドたちは、
彼がそういう悪事を働いているのを、
気づいていなかったらしい。。。。
さて、なんでこんな話を今頃書いているかというと、
今朝、コロナウィルスの一番の怖さは、
保菌者がそれに気づかず、まき散らすことなんだよな・・・
と考えていて、ふと、このA子ちゃんのことを思い出したのです。
一体どんな連想ゲームなのか、
自分でもわかりませんが、
でも、A子ちゃんとT・Jのことを思っていて、
なんだかすべてが腑に落ちたのです。
T・Jの真意を知らず、無邪気に彼を友だちに紹介し続けることで、
彼の悪意を身近な友人たちに仲介し、
まき散らしていたA子ちゃん。
ああ、今、日本人には、
このA子ちゃんみたいに、無邪気に、
自分はウィルスとは無縁と信じて、
お友だちや知り合いに、
菌をまき散らしている人がきっといっぱいいるんだよなと。
そして、そのこと自体の危険性に気づいていない人が、
もんのすんごい多いんだよな、ということ。
私だって、もちろん、例外ではありません。
マスク、除菌、うがい、手洗い。
そして、「ソーシャルディスタンス」。
NYでは、1.8メートル以内に近づくな、と言われています。
何より怖いのは、感染源がたどれないことだといいます。
たとえば、大規模集会はあり得ないにしても、
まとまった人数の集まる場所に出かけたなら、
そこから2週間程度は他の人に会わないようにする。
そうすれば、万一感染がわかっても、
感染源をたどることは不可能ではないはず。
過剰反応くらいできっと丁度いい。
世界の状況を見ていて、本当にしみじみ思います。
ついさっき、日本政府の対策の緩さが、世界で話題になっているという、
ニュージーランドヘラルドの記事を友人が送って来てくれました。
なんとも気の重くなる記事ですが、
なにより気が重くなったのは、
何事もないように生活している日本の人たちの写真です。
日本の対応は「ギャンブル」だと、
コロンビア大学の疫学専門家は書いています。
すべては水面下で進行していて、
気づいたときには、少しばかり手遅れとなりかねないと。
もちろん、優先順位を決めるのは自分です。
責任を取るのも自分です。
誰だって自由を失うのは嫌だし、
こんな時だからこそ、少しでも楽しい気持ちで毎日を過ごしたい。
でも、自分は100%保菌者じゃないと、
胸を張って言えないなら、
自分自身の行動制限を、
それぞれがきちんと計るのは、
社会人としての責任ではないか。
「これは戦争だ」
トランプさんは好きじゃないけど、
この言葉は実に刺さります。
いつまで続くかわからない。
そして、爆弾は、いつだって突然落ちてくる。
経済だって、生きていくためにはもちろん大事だけれど、
自分の親たちが、隣の家の人たちが、落ちてくる爆弾を心配しているのに、
電卓叩いて明日の家賃の心配をする人はいないはず。
医療関係者は、今、気が気じゃないと思います。
自分の頭で考える。
徹底的に準備する。
納得できる行動をする。
どんな時も、お互いに助け合う。
そして、人様に迷惑だけはかけないように最善をつくす。
それこそが、いざというとき、
パニックに陥らないために大切な心構え。
リラックスして、
平常心を保ちながら、
毎日を楽しむ努力をするのは、その後じゃないか。
そんな風に思いながら、
今できることを模索する日々です。
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