練習するのは、全てを忘れるため
「テクニックなんかどうでもいいんですよ、歌は。」
ピッチだ、リズムだ、表現力だと、
人一倍細かいことにこだわる私がそんな風に言うと、
生徒さんたちは一瞬身構えます。
「じゃあ、日頃、なんでそんなに、
基礎や細かいテクニックにこだわるのよ〜?」
というところでしょう。
一聴すると矛盾しているようですが、
これには私なりの理由があります。
こどもの頃の私は、
本当にむしゃくしゃすることばかりでした。
あれしろ、これしろばかりで、
きちんと説明できないオトナたちにイライラしたし、
あれはだめ、これはだめと、
私たちをコントロールしようとする世の中のさまざまなシステムにも、
いてもたってもいられない閉塞感を感じていました。
あたしは、いつだって、あたしらしく、
普通に楽しくやっているだけなのに、
通知表に「みすみちゃんは目立とう精神で困ります」とか
書かれるわけですよ。
今なら「は?目立ってなんぼやろっ!?」と、
冗談まじりに突っ込めますが、
当時の私には、
まぁ「世紀」でカウントできるくらい
時間が経った今でも覚えているくらいですから、
だいぶショックだったに違いありません。
目立つとか、目立たないとかって、
一体なんなのよっ!?
真剣に悩みました。
だって、目立ちたいと思ったことは、
ただの一度もなかったんです。
どんなに普通にしていても、
どこに行っても、何をしていても、
変わってる、目立とうとしている、などと言われることが、
もうこれ以上ないくらい嫌で嫌でたまりませんでした。
音楽に出会って、
自分は人一倍エネルギーを持てあましていて、
それまで、その表現方法がわからなかったのだと言うことに
突然気づかされました。
エネルギー量が多いから、
同じことをしていても、人と違う印象になる。
そして、それが周囲にいる人を、
なんとなく居心地悪くさせる。
そこから、やり場のなかった自分自身のエネルギーを、
音楽に注ぎ込み、
自分自身を音楽で表現するための修行の日々がはじまりました。
何十年も経った今振り返るから、
こうして余裕のあることばで語れるわけですが、
当時の私は、ただ必死でした。
練習しても、練習しても、思うように歌えない。
出しても、出しても、思うような声が出ない。
うまくなりたい。
その欲求が消えないのです。
超絶技巧の歌を目差していたわけではありません。
ただ、思うように表現できなかった。
まだ足りない、まだ出し切れない、
という想いに、ずっと捕らわれ続けていた感覚です。
そんなある日、とあるライブのステージで歌っているとき、
いきなり、
自分のカラダの中と外の世界が歌で繋がったような、
エネルギーが洪水のようにカラダの外に流れ出すような
何ともいえない感覚にとらわれました。
頭の中はからっぽです。
ただ、「ごぉ〜」っと何かが流れている感覚。
そして、そんな自分をどこかで俯瞰していて、
「わぁ、すごい。なにやってんの、私。
へぇ〜。いい声出てるじゃん・・・。」
と冷静に感じている自分もいる。
しばらくの間、そのライブは、仲間内で語りぐさとなりました。
誰も「うまかった」とは言いません。
みんな、口々に、「すごかった」と言うのです。
その時、ぼんやりとではありますが、
なぜ自分が毎日毎日練習することがやめられないのか、
ふと、わかった気がしました。
練習するのは、全てを忘れるため。
テクニックとか、音域とか、
そういういろんな制約を全部忘れて、
自分という存在の全てを自由に歌に託すため。
あるがままの自分をすべて表現するためだったのだと。
基礎トレをしたり、
テクニックを身につけたりすることは、
ボキャブラリーを身につけたり、
文法を学んだりすることと同じです。
伝えたいことがある人ほど、
多くのボキャブラリーを必要とするでしょう。
もどかしい想いを言語化するため、
ひとりでも多くの人に、
自分自身を理解してもらうため、
さまざまな文法テクニックを駆使する必要もあるでしょう。
「うまい」と感じさせてしまうなら、
テクニックと自分自身がひとつになっていないか、
表現すべきエネルギーが不足しているか、
そのどちらかです。
大切なのはテクニックそのものじゃない。
自分自身を100%過不足なく自由に表現できているか?
その表現は、完璧に相手に伝わっているか?
大事なことは、それだけです。
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