大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

なにこれ?こんなんでいいの?

   

20代前半まで、
アートなんて自分とは無縁のものだと思っていた私が、
ツアーのすき間時間を利用しては、
土地土地の美術館を訪れるようになったのは、

移動日に友人に誘われて出向いた、
倉敷の大原美術館で、
ゴーギャンの絵を見た瞬間に、
どかんと「何か」を受け取ってしまったからでした。

今では、美術館を目当てに海外に出かけるほど、
アートに触れる時間が大好きです。

 

なにがわかるわけではありません。
なんのうんちくもありません。

でもね。
なんか、どかんと受け取る。

美術館の作品を、ひとつひとつ丁寧に、
解説を読みながら、じっくり見る、
・・・というような、美術愛好家でもありません。

 

すぅ〜っと作品の前を通り過ぎる。

すると、いきなりグワッと心つかまれる。

それで、その作品の前にじっと立って、
一体なにが自分の心に突き刺さったのかを、
さらにさらに、感じ取る。

なんか、そんな雑な見方です。

先日も書きましたが、
やっぱりね、アートはエネルギーなんですよね。
私にとって。

 

何に心打たれるって、

「なにこれ?」
「こんなんでいいの?」

みたいなもんに、タイトルつけて、
「アート作品だ!」と言い切って発表する、

その、アーティストたちの潔さというか、
勇気というか、
そんなエネルギーに感動するんです。

 

曲書いてても、文章書いててもそうなんですが、
無から有を生み出す行為は、決断と思いきりの連続です。

混沌とした、自分の思考や感覚の中に眠る何かを、
ひょいっとつかみ出す。

制作が迷いなくすぅ〜っと進むときもあれば、
振り払おうとするほど、
ますますごちゃごちゃしていくこともある。

それで、心がカチッとはまるポイントで、
「できたっ」となるわけですが、

それをはじめて人に聞いてもらう時、
読んでもらう時は、とんでもなく勇気がいるものです。

何年やっていても同じです。

 

世の中、なんか言いたい人は山ほどいる。

そんな人たちの「なんか」をいちいち聞いていたら、
自分の中から生み出された、エネルギーのかたまりは、
しゅるしゅるとしぼんで、お蔵入りになってしまうか、
いじくり回されて、ぶっ壊されてしまうか、どちらかです。

「酷評されることなんて、全然平気〜」
なんてアーティストは一人もいません。
ひとりも、です。

 

それでも、なんでも、

自分を信じる。
自分のパッションを、自分のエネルギーを、
自分の「できたっ」を信じる。

その勇気と潔さに、
心から、心から感動するんです。

 

私がアートを追い続けるのって、
そんな勇気をもらいたいからかもしれない。

いや、きっと、そうなんですよね。

1年8ヶ月ぶりに開講!【ダイジェスト版MTLヴォイス&ヴォーカルレッスン12】。第8期MTL12と同時お申込で無料でご参加いただけます。

 - 本, 映画, アート...etc., 音楽

  関連記事

すごい演奏は、お互いの音をちゃんと聴くことからはじまる。

生演奏の面白さは、コミュニケーションの面白さです。 お互いの音を聞きながら、寄り …

「いつはじめるか」じゃない、 「いつまで続けるか」が重要なのだ。

「やっぱりピアノは幼稚園くらいからはじめないと、モノにならないわよ。」 &nbs …

音ジャンク vs. 音グルメ

先日、お友達の某有名ドラマーKさんとお話していた時のこと。 レコーディングの際の …

人は、人の「覚悟」に感動するのだ。

テクノロジーは、人間の技術力を低下させる。 こんな印象を持っているのは、私だけで …

声の温度。歌の肌触り。音の匂い。

ボタンひとつで音色を自在に変えられる、 いわゆるデジタル・シンセサイザーが登場し …

音楽は進化を続けている

「最近どんなの聞いてるの?」 若いアーティストたちのカウンセリングで、 彼らの好 …

「適正」って、「恋すること」なんだ。

「私は、ロックが好きなんですけど、 歌の先生に、キミにはそういう音楽は向いてない …

そんなとき、 人はロックを聴きたくなるのではないか?

最近、妙にロックが聴きたくなります。 日々の息詰まるような閉塞感。 やり場のない …

基準が曖昧なものほど奥が深いのだ

「おじょうちゃん、いい青に塗っといたよ。」   土建屋を営んでいた実家 …

人の心を動かすのは「エネルギー」。

アート鑑賞が好きで、 折に触れ美術館を訪れます。 国内外で、かれこれ30年以上ア …