大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「これで完璧!」って、なぜ言える?

   

神は細部に宿る。

通り一遍やるなら、誰でもできる。
ひとつ、ひとつの精度をどこまで上げて行かれるかが勝負の決め手。

何度も言ってきたことですが、
「精度を上げる」という作業は、
ことばで言うほど簡単ではありません。

 

人は、自分のやっていることを正しく評価できないからです。

表面が整っただけ、
なんとなくできちゃっただけでも、
「よくやった!」「完璧!」と過大評価して、いい気になる。

もしくは、
「どうせわたしなんか・・・」「こんなのやっぱりダメだ」と、
過小評価するあまりに、
どんどん迷宮に迷い込んで、いじくりすぎて、
結局完成させられずに終わる。

 

一流と言われる人は、
一体何を持って、これで完成、完パケと、
自信を持って世の中に送り出しているのか。

正しく自分をジャッジして、
正しく自分を追い込んで、
確実に、その仕事の精度を上げ、
世の誰もが「完璧」と認める作品を完成させられるのか。

 

大事なことは、以下のの3点に尽きます。

 

1.世の中にあふれている素晴らしい作品の数々に触れること。

目を塞ぎ、耳を閉ざして、感性が磨かれるはずはありません。

審美眼、判断力というものは、
自分の中の情報量に比例して磨かれるもの。

自分は天才だと思い込んで、
自分の中の限られた情報を反芻しているだけでは、
新しいものは生まれません。

音楽家だからといって、
その情報ソースは音楽だけとは限りません。
アート作品にも、映画にも、小説にも、
自然界にだって、
自分自身の感性を磨いてくれる情報があふれています。

 

2.自分の作品を客観的に見る目、聞く耳を養うこと。

他人の耳で、他人の目で、作品に触れる。

自分は、街で通りがかりに耳にしたこの作品に、
心奪われるだろうか?
奪われるとしたら、何故か?

足も止めないなら、自分の作品に足りないのは何か?

この作品を、お金を払って自分のものにしたいと思えるか?

そんなことを徹底的に考えてみる。

かつて、先輩ミュージシャンが言ったことば。

「この作品がCDになって、CDショップの棚に並ぶときには、
マイケル・ジャクソンと同じ棚に、同じ値段で並ぶんだ。
予算がないとか、時間がないとか、何の言い訳にもならないんだよ。」

 

3.最後は「腑に落ちる」域まで追い込むこと。

ことばでは説明できない感覚に、「腑に落ちる」があります。

なんか、カチッとはまる。

This is it!
まさに、これ!
という感覚がどこからともなく生まれる。

 

神様がくれる感覚なのか、
宇宙からのメッセージなのか、
とにもかくにも、「これだ」とわかる感覚が、
あるポイントで、ふと落ちてきます。

画家の横尾忠則さんは、
新しい展覧会のための作品をつくるとき、
「霊界ですでに開いた展覧会を再現する」という表現をしていたとか。

すでに描いた作品を思い出すわけですから、
「これだ!」
となるわけですね。

 

 

いかがでしょう?

「完璧」と言い切れる作品を、パフォーマンスを、
ひとつでも多く残せたら、世の中に送り出せたら、
ミュージシャン冥利に尽きますね。

最後に、かつてのバンド仲間が言ったことば。

「作品はね、つくっているときは自分のもの。
一旦世の中に出したら、ファンのものだからね。
とにかく、納得いくまでやるしかないんだよ。」

◆ 超少数精鋭。『第2期インストラクター養成コース』。定員3名(残席1)。
詳しくはHPをご覧ください。

◆【メルマガ365】では「ノドにいいもの、悪いもの」について連載中。
「バックナンバーまとめ読み」もお勧めです。ご登録はこちらから。

 - The プロフェッショナル, 音楽

  関連記事

エネルギーのピークは本番に持っていく

「歌う当日って、どんなことを心がけたらいいですか?」 という質問をよく受けます。 …

「そういう素人臭いのじゃなくて、ちゃんとフレーズ歌って!」

「声くださ〜い」   音楽の現場に長くいるので、 この「声ください」と …

それってパクリだよね?

どんなにすごいアーティストでも、 いや、有名なアーティストであればあるほど、 盗 …

BPM1目盛りの職人芸

BPMということばが普通に使われるようになったのは、 いつの頃からかわかりません …

ボイトレ七つ道具、公開(^^)

最近、講演やセミナーをするときだけでなく、通常のボイトレをするときにも、 声のし …

”飽きない”。”慣れない”。”手を抜かない”。

何年やっている曲でも、 自分自身がその曲と向かい合うたびに、 新しい発見があった …

「自分基準」を育てる。~Singer’s Tips #3~

「本当に実力がある人」って、 今、自分が何をしているか、 確実に理解しているもの …

「数値」と向き合う。「ヒト」と向き合う。

◆歌の「うまさ」は数値化できる。 専門的な機械を使えば、いや、近年ではそこそこの …

歌うときのオケ、どうしてます?

さて、ある程度練習が進んだら、 オケに乗せて、自分の歌を録音してみたいもの。 & …

期待にこたえるだけじゃダメなんだ。

「期待にこたえるだけじゃダメなんだ。 いい意味で期待を裏切り続けなくちゃダメなん …