レッスンでは、トレーナーの「アーティスト性」は無用どころか、邪魔なんだ。
レッスンの折には、多かれ少なかれ、
生徒たちに、歌を歌って聞かせるシーンというのがあります。
こうした時に、心がけているのは、
自分のアーティスト性みたいなものを極力押さえ込んで、
「正しく」「うまく」歌うこと。
時に、レッスンを受けるシンガーの歌の特徴を拾ったり、
本人に、どんな風に歌いたいのかヒアリングして、
「だったらこんな感じで歌うとどうかな?」
と、歌って聞かせる必要があることもありますが、
トレーナー個人のシンガーとしての自己主張やアイデンティティは、
レッスンには無用どころか邪魔なんです。
実はそれって、言うほど簡単なことではなくって。
シンプルにプレーンに歌おうとすることで、
妙にへたくそに聞こえて、途方に暮れることもあります。
押さえ込んでるつもりでも、
自意識が顔を出して、偉そうに歌ってしまったり。
歌い慣れた曲や、
得意ジャンルの洋楽の曲なんかを教える時などは、
ついつい気持ちよくなって、自分の世界に入り込んでしまったり。
そのたびに反省するし、冷や汗もかきます。
そもそも、生徒たちは、自分の個性を極めたい。
自分らしいベストな表現を引き出す手段のひとつとして、レッスンにくるわけです。
そこで、トレーナーが、
自己主張やアイデンティティを出すのは、全くもってお門違い。
それって、
料理の専門学校で教える先生が、授業で、
自分の店のレシピの素晴らしさを説くようなもの。
デッサンを教えるべきなのに、
ピカソみたいな視点で裸体を描く絵画の先生のようなものです。
発声レッスン専門の、いわゆる「ヴォイストレーナー」という人は別ですが、
ヴォーカルのトレーニングもしている人は、私も含め、
多かれ少なかれ、音楽的なキャリアを持っているものです。
それがどんなキャリアであるにせよ、
そこにどんな想い入れやフラストレーションを抱えているにせよ、
自分自身のキャリアと、トレーナーという仕事とは、
直接なんの関係もないこと。
もちろん、キャリアに裏打ちされた実力や経験があれば、
それだけリアルで深みのあるアドバイスができるでしょう。
バラエティに飛んだ、的確なお手本も見せられるでしょうし、
自信を持った対応もできるかもしれません。
しかし、それはそれ。これはこれ。
生徒がトレーナーや講師のキャリアに興味を示すことは、
そうはありません。
自分のキャリアに対するリスペクトを期待する気持ちが
ほんの少しでも出てきたら、頭の冷やしどきです。
人にものを教える仕事をする以上、
いつも頭に置いておきたい、大切な、
そして、とても難しいことです。

マジカルトレーニングラボのHPはこちらです。
関連記事
-
-
歌を歌って音楽の世界で活躍したい人に必要な3つの資質
歌を歌って、音楽の世界で活躍したいという人にとって、 必要な資質はなんでしょう? …
-
-
確信だけが、人の心を動かす。
「MISUMIさん、バッチっす!OKです!」 レコーディングのお仕事では、 歌っ …
-
-
「歌いたいっ!」が胸を叩くから。
トレーナーをはじめて、 ずっと大切にしてきたことは、 「昔の自分」のまま感じて、 …
-
-
「観客総立ち」を演出するプロの仕掛け
先日、キャロル・キングのケネディー・センター名誉賞をたたえて、 アレサ・フランク …
-
-
「切り際」で、歌は素晴らしくも、へったくそにもなる。
昨日、「音の立ち上がり」は、 歌い手の声の印象を大きく左右する、 というお話をし …
-
-
プロフィールって、どうしてます?
先日、作家の中谷彰宏さんのプロフィールを見ていたら、 なぜかご著書のことがどこに …
-
-
準備せよ。そして待て。
道が開けないとき。 ツキがやってこないと感じるとき。 過小評価されていると思える …
-
-
「厳しい先生」
「MISUMIさんは、なんで僕のことだけ叱らないんですか?」 そんな風に、言われ …
-
-
リズムが悪いんじゃない。カツゼツが悪いんだ。
昨夜、ヒップホップグループN.W.Aの伝記的映画、 “Straigh …
-
-
「天才はみな、オタク?」or「オタクはみな、天才?」
誰に頼まれたわけでもなく、 1円になるわけでもない。 他人から見たら、ただのオタ …
