大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「あなた、ジャズを勉強したこと、あるの?」

      2015/10/25

ニューヨークにある音楽学校、マンハッタンスクールオブミュージックの、
奨学金試験を受けたことがあります。
マンハッタンスクールオブミュージックといえばジャズとクラシックの名門。
「アメリカにもう少しいたい」という不純な気持ちと、
「音楽学校というものに通ってみたい!」というあこがれとで、ダメ元受験。

 

それでも、幼少期からジャズを聴いて育ったわけだし・・・
日本じゃ一応、プロなわけだし・・・
と、どこかで「もしかして」が、もちろんありました。

選曲したのも、当時、ライブなどでよく歌っていた、
ジャズのスタンダード集にも出ているような曲。

 

マンハッタン、音楽学校、しかもジャズ科の学生たちとの演奏という、
これでもかとアウェイな場所にしては、
我ながら、「やった感」のある歌を歌って、
ちょっといい気分になった、次の瞬間のことです。

 

居並ぶ試験官の中の一人の女性がぱ〜っと手をあげて、いきなりこう聴いてきたのです。

「あなた、ジャズを勉強したこと、あるの?」

そのとき、私の頭の中での独白は、
「あ、やっぱし、ばれるんだ・・・」

 

一体何が違ったんだろう?
私の何が、ジャズっぽくなかったんだろう?
あんなにジャズっぽく歌ったのに、なぜすぐお里が知れちゃったんだろう・・・?

もちろん、あっさりと試験に落ちてからというもの、
そんな素朴な疑問がずっと頭の中にありました。

 

こんなこともありました。

都内某所の老舗ジャズクラブに知人の演奏を聴きにいったときのこと。

ライブが終わってからもしばらくの間、
やはりRock畑である主人と2人で、おしゃべりしながらお酒を飲んでいました。

 

すると、突然、
すっかりライブが終わったはずのステージの上に男性があがったかと思うと、
ドラムを叩きはじめたのです。
近くにいた他のミュージシャンが、そこに乗っかり、
ジャムセッションがはじまりました。
それが、どうにもイマイチで・・・
「なんか、シャキッとしないドラムだね」
「アマチュアでしょ?チューニングとかもできてないね」
などと、ひそひそ話をしたあげく、話もできなくなったので、
席を立ってそそくさと帰ってきてしまったのです。

 

その方が、実はジャズ界では著名なドラマーだったと
後になってから知ったときは、主人と二人で、

「ひぇ〜。俺ら、ジャズ、わからなすぎる」と深く反省したものです。

同じ音楽といえども、流派が違えば聴くポイントや感じるポイントが違います。

そのポイントは、わかる人にしかわからないような微妙なものから、
誰が聴いても、「おや?」と思うわかりやすいものまであるでしょう。

どちらにしても、その「微差」が、音楽の匂いになり、フィーリングになり、
グルーブになる。

 

その微差がわからないから、演奏のクオリティがあがらない。
そして、上がっていないことにも気づけない。
気づけないから上達しない・・・そんな循環で、
差はどんどん広がっていくわけです。
微差はいつだって大差を生むのですね。
「まずは聴け」「センスを磨け」と繰り返し言うのには、
こうした理由があるのです。
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 - The プロフェッショナル

Comment

  1. 藤原憲一 より:

     2度目のコメントです。前に書きましたテッド・ローゼンタールは、ジュリアード・スクールの先生をしていますが、マンハッタン・スクール・オブ・ミュージックの先生もしています。今年は優秀な教授として、学校から表彰されました。なにか身近なような遠い存在のような。

  2. TAKA より:

    >その方が、実はジャズ界では著名なドラマーだったと
    >後になってから知ったときは、主人と二人で、
    >
    >「ひぇ〜。俺ら、ジャズ、わからなすぎる」と深く反省したものです

    ひょっとしたら、著名ドラマーの演奏が実際、酷かったのかも????

    ジャズを知らないわけでなし、「名前」で判断するより、自分の耳と感性で判断してもよかったのかもしれないですね~

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