大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「このくらいデカい音出さなくちゃいい音出ないだろ?」

      2015/10/30

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なお、2015年11月21日(土)『ダイジェスト版 MTL ヴォイス &ヴォーカル オープンレッスン12』は、増席分もふくめ、すべて満席になりました。以降のお申し込みはキャンセル待ちになります。詳しくはこちらです。
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ずいぶん前のことになりますが、
Bunkamuraにクラシックのコンサートを聴きに行きました。

 

クラシック音楽は嫌いではないのですが、
もっぱらレコードやCD、そして稚拙な自分のピアノで楽しむくらいで、
なかなかコンサートに足を運ぶ機会はありません。

そのときが、おそらくは、十数年ぶりの、
生まれて2〜3回目のコンサートだったと記憶しています。

席にひとりすわり、緊張した面持ちで待つこと数十分。
待ちに待ったコンサートがはじまったその瞬間です。

なんともいえない違和感と、フラストレーションに似た感覚に、
襲われました。
音が・・・・小さいのです。

 

第一バイオリンをフィーチャーした1曲目、
肝心のメロディが全然聞こえてこない。。。

 

そう、会話で相手の声が聞こえないときに、
何度も聞き返さなくちゃいけない、あの感覚に似ています。

 

あまりのしーんと具合に不安になる。
聞き取れなくて、ちょっといらっとする。
これで、最後まで楽しめるのかしらと、ますます不安になる。。。

 

日頃、一般の人なら速攻で耳鳴りするレベルの音量の中にいるせいで、
小さい音に耳の焦点が合いづらくなっているのだ。
そう気づきました。

 

やがて、10〜20分ほど音に集中していたら、
少しずつ、ひとつひとつの音がクリアになって、
コンサートの最後には、そのダイナミックな演奏に感動すら覚え、
音量とは、実に相対的かつ、パーソナルな問題なのだなぁと、感じたものです。

 

 

「すみません。少しだけボリューム下げてもらえませんか?」

「このくらい出さなくちゃいい音でないだろ?
ってか、ヴォーカル、声量なさ過ぎだよ。
これ以上マイクの音量上げられないんだから、ちゃんと歌ってよ。」

「ギターでかいなぁ。スピーカーの向き変えてもらえないかな?」
・・・。

ロックの現場は、常に音量との戦いです。
ステージの上にいるだけで、船酔いレベルで気分が悪くなるような、
音程感さえ感じられなくなるような、激しい音量のバンドもあります。
一体全体、なぜロックは、そんなに音量が大きいのか?
生楽器であるドラムの音量が、通常の音楽よりもどうしても大きくなるから、
他がそれにあわせて大きくなるのは仕方ない説。

ある程度の音量を出さないと、ギターもベースも(ロック的)いい音しない説。

ロックってそういうもんだ説。

・・・諸説ありますが、これももちろん習慣。
ロックを演奏している人の中にも、
小さい音量の方が気持ちよく演奏できるという人もいます。

自分の耳を守るため、演奏中は耳栓をするという人もいます。

 

私自身、ロックが好きなので、
ある程度の音量がないと高揚しない感覚はよくわかりますが、
それでも、ヴォーカリストにも、耳にも、
フレンドリーな現場とは言いがたいのが事実です。

 

さて、今日のテーマは適正音量。

どの程度の音量が心地よいと感じられるかは、
受け手によっても、
また、演奏される楽器や音楽の種類によっても、
シチュエーションによっても、大きく違います。

 

そう考えると、その人の「適正音量」というのは、
限りなく、「体感温度」に似ているところがあるのではないか?
その日の自分のコンディションや服装によって、
季節によって、その日の気分によって、
毎日、瞬間瞬間変わるのがその人の体感温度。

 

とすれば、バンドやライブでの音量決めで大事なのは、
「バランス感覚」と「思いやり」。
相手の気持ちや気分を理解しよう、歩み寄ろうという努力。

全体の中での自分の音のあり方を感じ取れる感性。

そして、公平な立場で聴いている人の意見に耳を傾ける素直さ。

自分の「体感温度」を周囲に押しつければ、
まわりは気分よく演奏できるどころか、
ストレスを感じたり、具合が悪くなったりする場合さえある。
また周囲にいる人の体感温度を全く理解できない、
耐えられないというなら、
その人たちと一緒にいること自体に無理があるでしょう。
誰が正しい、間違っているは、問題ではありません。

「バランス感覚」と「思いやり」。
適正音量は、お互いのコミュニケーションのバロメーターなのかもしれません。

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 - The プロフェッショナル

Comment

  1. 藤原憲一 より:

     コンサートの企画と運営を仕事にしています、藤原憲一と申します。ジャズが主ですが、それぞれの楽器が持ついい響きを大切にしたいと思うと、どうしても生音に傾いてきます。倍音と実音のバランスとか、場合によっては倍音そのものが、PAによって消されてしまうことが、多々あるように思っています。PAをかけると音は膨らみますが、元のシャープさを保つのは、きびしいことが多いです。てなわけで生音を大切にしています。テッド・ローゼンタール(p)を初リーダーアルバムをNYでリリースをして以来の30年近いお付き合いをしています。昨年はアマゾンとiphone で週間記録で売上No.1になりました。500人ぐらいまでのハコでしたら、ベースのみポータブルアンプスピーカーを使用しますが、ピアノももちろんds も生でコンサートをしています。今年の12月は、ジャズアトリンカーンセンターで、オーケストラとガーシュインのコンチェルトin F とディジーズ・クラブ・コカコーラでトリオによるギグがあります。なにかと、よろしくお願いいたします。

  2. たかけん より:

    フューチャー(未来)しません。( not future )
    するのはフィーチャーです。(that’s feature )

  3. otsukimisumi より:

    ご指摘ありがとうございます。ミスタイプです。
    訂正いたします。

  4. otsukimisumi より:

    コメントありがとうございます。
    生楽器が主の演奏は、生のまま聞かせられるのが理想的ですね。
    箱の状況が許す限り、私も、生で聞きたいと思います。

  5. サガアツシ より:

    サガアツシと申します。
    ギターを嗜んでおります。
    めっちゃ共感したのでコメントさせていただきます。

    >バンドやライブでの音量決めで大事なのは、
    「バランス感覚」と「思いやり」。
    相手の気持ちや気分を理解しよう、歩み寄ろうという努力。

    全体の中での自分の音のあり方を感じ取れる感性。

    そして、公平な立場で聴いている人の意見に耳を傾ける素直さ。

    これバンドで演奏する上で自分が超意識してることなので、読んでて嬉しくなりました。
    どんな曲でも最高に聴かせる為に自分のギターはどうあるべきか試行錯誤しながら、これからも演奏を楽しんでいきたいです。

  6. otsukimisumi より:

    >サガアツシさん
    コメントありがとうございます。
    バンド全員でひとつの音楽をつくっているのだということを常に心において演奏することって、とても大切ですね。

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