一流の人は「飽きない」。
「一流ってのは、飽きないものなんだ」
友人が、バンドでメジャーデビューするときに、
所属していた大手レコード会社の社長に言われたということばです。
曲がヒットすれば、その同じ曲を、何十回、何百回と人前で歌う。
その繰り返しを、飽きないで、丁寧に続けられたものだけが一流になれる。
音楽のジャンルにもよりますが、ポップスとはそんなジャンルでしょう。
かつてサポートをしていた時代に、40数本のホールツアーを回ったことがあります。
コーラスの身ですら、毎日毎日、同じことが続くと、
少しずつ、飽きたり、雑になったりする。
まして、看板のシンガーともなれば、
振り付けや歌はともかく、MCまでも、毎晩判で押したように同じことをしゃべる。
どうして、毎日、おんなじことを、あんなにおもしろそうにしゃべれるんだろう、と、
内心不思議に思ったものです。
今日、山下達郎さんのコンサートに誘っていただきました。
片手に入るほどしかレコードやCDを聞いたことのない邦楽アーティストの中でも、
達郎さん(と、後2〜3人)だけは、かなりヘビロテで聞いていた時代があって、
懐かしい曲もたくさん登場しました。
何より、度肝を抜かれたのは、達郎さんの歌の素晴らしさ。
なんと御年63才にして、すべての曲を原キーのまま歌っていました。
しかも、シングル曲においては、
自分の過去の名演である、レコーディングの歌唱をほぼ完璧に再現していたのです!
「耳にタコができるくらい聞いてきた『あの曲』をナマで聞きたい!」
自分がファンであるアーティストのコンサートに足を運ぶ、大多数がそんな気持ちでしょう。
ところが、ファンの気持ちとは裏腹に、多くのアーティストが、
半ばサービス精神で、半ば自分の成長を見せたくて、
レコーディングの時とは、微妙に、もしくは完全に違うバージョンで歌いがちです。
しかし、ファンは、
「あそこの、フェイクの気持ちよさ」「あのリズムの妙」を待っている。
メロディーやフェイクが微妙に違っているだけでも、
なんとなくしっくりこなくて、
そうこうしているうちに曲が終わってしまい、がっくりくることも、しばしばです。
ご自身も音楽ファンである達郎さんは、
そんなファンの気持ちがわかっているのかもしれません。
超有名曲、大ヒット曲に関しては、
キーも含め、フェイクから、節回しまで、ほぼ完璧なる再現でした。
コピーオタクだった私が、そう思うのだから仕方ないのですが、
あまりに完璧にオリジナル音源と同じ歌唱なので、
ファンの間で「達郎さんは口パクでは?」
という噂が出たことさえあったそうです。
飽きずに、同じことをやり続ける力の素晴らしさに加え、さらに感動したのは、
30年以上も前の自分の歌を、そのまま歌っても違和感を感じさせないということ。
20代からすでに自分のスタイルを確立していたという証です。
やはり天才です。
コンサートの中での、達郎さんの話。
「僕のバンドのメンバーは日本の歌バンの最高峰だ。
40数本、毎晩のように同じメニューで演奏しているのに、
マンネリしない。ダレない。素晴らしい集中力です。
それが一流の証です。」
「コンサートは一期一会なんです。
今日の演奏でしか、僕のことを見る機会がないかも知れない人に、
やっぱりいい演奏を聴いてもらいたい。」
「何十年もやってるから、自分が飽きちゃって、
わざとヒット曲1曲もやらないなんて人もいるけど、
一生に一回きりしか自分のコンサートを見ないかも知れない人がたくさんいるのに、
ヒット曲が1曲もないコンサートを、僕はできない」
「一流は飽きない。」
圧倒的なプロ意識と、度肝を抜かれるほどの完璧な演奏に、
一流とはこう言うものだという姿勢をまざまざと見せていただいた夜でした。
関連記事
-
-
100万人と繋がる小さな部屋で。
デビュー前からヴォイトレを担当している、 アーティストのライブに行ってきました。 …
-
-
「自分の音域を知らない」なんて、意味わからないわけです。
プロのヴォーカリストというのに、 「音域はどこからどこまで?」 という質問に答え …
-
-
人前に立つ前の「MUST DO!」〜ムービー/チェック編〜
人前に立って、パフォーマンスしたり、話したりする機会を与えられるということは、 …
-
-
「華がある人」になる
「あの人は華がある。」、 反対に「華がない」ということばを耳にします。 &nbs …
-
-
自分の「ウリ」を見つけた女は強い
「MISUMIさんって、ジャニスみたいですね。」 若い頃から、そう言われるたびに …
-
-
「本屋を探しても答えがみつからなかったら、そん時はお前がその本を書け」
「わかないこと、知りたいことがあったら本屋に行け。 世の中には、お前とおんなじよ …
-
-
まず、自分の出音(でおと)をちゃんとせい。
トレーナーズ・メソッド、リズム編のテキスト制作中にて、 古今東西のドラマーの名演 …
-
-
「君、あんなもんでいいの?判断基準甘くない?」
「ま、君は、リズム、もうちょっとシビアにがんばった方がいいね」 1 …
-
-
学ぶ姿勢
誰かから何かを学ぶときは、 ひととき自我のスイッチを切り、 その人の言うことを、 …
-
-
「飲みニケーション」は死んだのか?
ここ数年、若手バンドマンたちの「クリーン」ぶりに、 驚かされるシーンに何度も出会 …
- PREV
- オトナとコドモの線引き
- NEXT
- 「〜だと思います」と言わない勇気。
Comment
まったくその通りです(^O^)/私も達郎さんのコンサートを一度聴きに行きましたが、レコードと変わらない歌声に、クチパクかと勘ぐりたくなりました(^_^;)昔のヒット局をアレンジして歌う人がいますが、原曲には及ばなくて、ガッカリします。一流早く輝きを失わないですね(^_−)−☆
>つっちゃんさん
はい。「歌」はその歌唱スタイルと共に記憶に刻まれるものですね!
良いお話ありがとうございます。
ポピュラーミュージックのヒット曲というのは、人の心に入り込む感性の遺伝子のようなものを持っているのだと思います。その心の中の遺伝子を、いつまでも共鳴させることができることが、一流なんでしょうね。色々と思い当たることが多く、目から鱗でした。
≥ぷりんすさん
コメントありがとうございます!
「感性の遺伝子」、いいことばですね!
何か話半分みたいな内容のような気もしますが。
私はどうも山下さんよりは「イタズラ心」がありますので、たまには普段と違うこともやってみようかな、って思うこともありますね。
>まーくんさん
音楽に向かう姿勢はそれぞれですね。
一流のみなさんは、それぞれのこだわりをお持ちだと言うことだと思います。
ここ数年で、八○純○さん、井○陽○さん、広○香○さん など 一流のメジャーアーティストさんのコンサートを見てきましたが、緊張感を感じず、手慣れた感じで、心を注ぎだすような、しびれる感じはありませんでした。
ただ玉○浩○さんだけは、魂を注ぎだされた心の歌でした。感じ方の違いはありますね。
新人であったり、ガチガチでも、伝えるものをもっている歌手の歌を聞きたいです。
また曲は成長したり、変化してもしょうがないのかなーと思います。この年令でどう曲を、料理するのか、キーが下がったりして、アレンジが変わっても、良いと思います、最近。
技術的な歌唱ももちろん歌手は大事ですが、心が伝わるか、歌こころが伝わるか・・が最近は私は大切に思います。