「なんとなく」や「しかたなく」でキーを決めない。
作曲、作詞、アレンジ、レコーディング・・・
作品づくりにはさまざまな過程がありますが、
なかでも、私のお気に入りの作業のひとつに「キー決め」があります。
「は?キー決め?」(街の声)
はい。キー決めです。
制作の過程で、キー決めほど、過小評価されていることも少ないでしょう。
ボーカリストなら、キーが半音違っても、声の音色や歌のスタイルに影響します。
弦楽器なら、ポジションをどうするか、開放弦は使えるか否かなど、
音の雰囲気だけでなく、弾きやすさにも影響するでしょう。
また、サウンド面でも、フラット系のサウンドとシャープ系のサウンドでは
ずいぶん印象が変わります。
そんなに大事なキー。無造作に決めている人が多すぎます。
シンガーソングライターで圧倒的に多いのが、
「曲ができたときのキーで決める」。
自分の声やサウンドを知り尽くしているという人以外、
これは、実にイージーな決め方です。
シンガーソングライターの多くが自分で楽器を弾いて曲をつくるわけですが、
多くの場合、いわゆる手癖でコードを選びがち。
弾きやすいコードや、弾き慣れているコード、耳慣れた進行。
これでは、どんな曲も同じようなキーになりがちです。
また、ロックなどのように弦楽器主体でつくられる曲の場合、非常に多いのが、
「楽器に都合のいいキーで決める」。
弦楽器には弾きやすいキー、鳴りのいいキーというのがあります。
特に、リフ中心の曲の場合、
最初から、ポジションや指使いまで考え抜かれてつくられることも多いため、
弦楽器の人はキーを変えることを極端に嫌がる傾向があります。
カポタストの使えるアコースティックものの場合は事情は多少違いますが、
エレキ主体の曲などでは、
そもそものチューニングを上げたり、下げたりできる範囲である、
半音の上下程度でも、場合によってはキーチェンジに難色を示されます。
多くの場合が、「なんとか歌って」となって、
ボーカリストの泣き寝入りになってしまいます。
もちろん、ある程度の音域を歌いこなせる実力を磨くことも大切ですし、
ギターサウンドを際立たせるキーで歌えるような努力や工夫も大切ですが、
ときには歩み寄りが必要ですね。
そして、最も多いのが、
「とりあえず歌い手が歌えるキーで決める」。
もちろん、歌い手がメロディをきちんと歌えるキーかどうかは重要なポイント。
しかし、それがすべてではありません。
地声で出さなくてはいけない、ファルセットでなくてはいけない、
という決まりはありませんし、
まして、ポップスやロック、R&Bなら、
多少のメロディのアレンジはつきものです。
キーが半音違うだけでも声の印象は変わるものですし、
声域のチェンジなどのポイントがどこにくるかでも、
歌の仕上がりはずいぶん違います。
(声とキーについて詳しくは、以前書いた、
『「自分の声の地図」を描く』を参照してみてくださいね。)
キー決めは曲の可能性、声の可能性、サウンドの可能性を広げてくれる、
大切な要素のひとつです。
いつもいつも「なんとなく」や「しかたなく」で決めず、
ときには、計算や工夫、研究をして決めてみると、世界がぐんと広がるはずです。
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