大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

パフォーマンスは「鮮度」と「完成度」が命!

   

「僕は自分の過去には一切興味がないんです。
だから自分の作った作品も全部処分しちゃうんで、CDも一枚も手元にありません。」
 

少し前にお目にかかった元音楽家で、
現在はビジネス系の本の執筆などをしているという方のお話です。
 

これはずいぶん極端な例ですが、
「創り終わった瞬間に、自分は次に向かっているから、
あえて完成した作品を聴くことはない。」

というミュージシャンは、かなりいるようです。

 

一方で、「自分の作品の最大のファンは自分だから」というミュージシャンもいる。
 

「自分自身が何度聴いても楽しめるようなものを創りたい。」
というのが、彼らの原動力。

苦労してできあがった作品を聴くことは自分自身へのご褒美というところでしょうか。

 

 

さて、ではライブはどうでしょう?

 

「ライブは打ち上げ花火みたいなもの。
振り返ったって、しょうがないでしょ?」
 
と、自分のライブの録画や録音をチェックしないミュージシャン、
パフォーマーも多く存在します。
 

何事も物の考え方、それぞれの主義のようなもので、
何が正しい、正しくないというのはもちろんありません。

 

ここであえて、いつものように持論を展開させていただくなら・・・

 

CDなどのように、時間をかけて創り上げる「作品」と、
ライブのような「パフォーマンス」は、少し意味が違います。
 

「パフォーマンス」は、いわば生もの。

 
鮮度が大切なのはもちろんですが、
鮮度がいくらよくてもパフォーマンスそのものの完成度が低ければ、
受け手の満足度は低い。

 
そして、その完成度を上げるためには、
やはり1回1回のパフォーマンスを、細部に至るまで、客観的にチェックし、
ダメ出しし、反省し、
よかったところは、よりよく、ダメだったところは、修正し、
次に向けて最大限の努力をする。
 

これだけです。

 

パフォーマンスは「生もの」だからこそ、回を重ねるたびに変化します。

 
2回と同じものはありません。

むしろ全く変化しないパフォーマンスなら、家で完成度の高い「作品」を聴く方がいい。

変化するなら、それは退化ではなく、変質でも腐敗でもなく、
成長でなくてはいけないのです。

 

もちろん、自分のライブ、パフォーマンスを研究したり、
練習したりすることばかりが、成長する方法ではありません。 

自分自身が新しいことに挑戦したり、さまざまな人に出会ったり、
思い切った変化を遂げることで、
パフォーマンス自体も大きく変わる可能性があるでしょう。

 

そして、忘れてはいけないこと。

 
努力の末、どんなにパフォーマンスの完成度が上がっても、
「まぁ、こんなもんかな」と手癖でライブをやるようになったら、
自分のパフォーマンスの鮮度はどんどん落ちていくということ。
 

鮮度の低いパフォーマンスに人は感動しません。

 

鮮度と完成度。

パフォーマーである以上、肝に銘じておきたいことばです。

 

21829614_s

 

 - The プロフェッショナル

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


  関連記事

一生OKの出ない地獄

「あ〜、今のとこ、ちょっと音取れてないみたいなんで、 もう1回お願いします。」 …

「自分のことば」になってない歌詞は歌えない!

役者さんがしばしばつかうことばに「セリフを入れる」というのがあります。 この「入 …

「その気」にさせてくださる?

代理店のプロデューサーアシスタントをしていた時代、 ヨーロッパ向けCMのレコーデ …

「あの人、ノド大丈夫かな?」

仕事柄、お芝居やミュージカルなど、さまざまな舞台にお招きいただきます。 レッスン …

「自分の音域を知らない」なんて、意味わからないわけです。

プロのヴォーカリストというのに、 「音域はどこからどこまで?」 という質問に答え …

人生はリハーサルのない、1度限りのパフォーマンス

ひとりのミュージシャンの生涯には、 どのくらいの苦悩や葛藤、挫折があるのでしょう …

本番で実力を発揮するための「3大要素」!

本番で結果を出せるか否かは、 【経験値 x 準備 x 集中力】 の値で決まる。 …

自分との約束

プロフェッショナルやスペシャリストを志すとき、大切なことはシンプルなことばかり。 …

たかが半音。されど半音。

たった半音のキーの違い。 しかし、この「たかが半音」が大きな違いとなるのが、 音 …

エネルギーのピークは本番に持っていく

「歌う当日って、どんなことを心がけたらいいですか?」 という質問をよく受けます。 …