楽器店に貼り付けられたメン募に電話した日
インスピレーションか、衝動か、はたまた「魔が差す」というのか。
気になったらその瞬間に行動せずにはいられない。そんな癖があります。
そんなんで、ずいぶんイタい目にもあってきたわけですが、振り返れば、「やらなければよかった」と思えることはひとつもありません。
むしろ、そうした、「後先考えない行動」が、やがて自分の運命を大きく変えていくターニングポイントだったと思えることしばしばです。
フリーターをしながら歌やダンスのレッスンに通っていた頃のことです。
渋谷の楽器店の通路に貼られた、メンバー募集のフライヤーが眼にとまりました。
そもそも、貼っていいわけもない場所に、ずらーっと並んだ、同じフライヤー。
「当方、ロック、R&Bを演奏する外国人ギターリストとボーカリスト。
プロを目指す女性ボーカル、ドラム、ベース募集。」
「プロになりたい。だけど、コネなし、バンドなし」だった私。
衝動的に、その怪しげなフライヤーを引っぺがし、近くの公衆電話から、そこに書かれた番号に電話をかけたのです。
いやー、やらないね。
普通なら絶対やらない。
ひどいバンドかもしれない。
騙されるのかもしれない。
そもそも、相手にされないかもしれない。
それでもなんでも、その時の私には、そのフライヤーをみつけたことが、なんだかとても意味のあることだという気がしました。
待ち合わせた高田馬場駅には、身長190センチ以上はあろうかという黒人男性が、
シャム猫を首に乗せ、派手にお化粧をした日本人の奥さんを連れて、現れました。
一生忘れない、インパクトのある登場シーンでした。
集まったのは人のよさそうな日本人の男性ドラマーと、気弱そうな男性ベーシスト。
私くらいの身長のオーストラリア人ボーカリストのハリーと、私。
件のアメリカ人、クリスはギターを弾いていました。
彼らと何回くらいリハーサルをしたのだったか?
「俺にはコネがあるから」が口グセだったクリス。
その「コネ」とは、「ムゲンの社長の駐車場を知っている」ことで。
「マライヤ・キャリーだって、パーティーで、ソニーの社長にデモテープを渡したから今があるんだ」
「俺は”Will Power”を信じているんだ」
真面目で一所懸命なクリス。
その思い込みの強さと行動力には、たくさんの刺激をもらいました。
メンバーも、みんな、いい人ばかりでしたが…なにしろ、歌も演奏も、まったくイケてない。
一緒に曲もつくったけど、これまたびっくりするほどイケてない。
みんなといるのは楽しかったけど、それでは学生バンドをやっているのと変わりません。
ある日、「これ以上続けられない」と切り出すと、他のメンバーもそれに乗っかって、次々「やめる」と言い出しました。
あの時のクリスの悲しそうな顔は、たぶん一生忘れられないでしょう。
そう。バンドはあっさり終わったんです。
しかし、実はこの時、一緒にバンドをやめたドラマーのヒノ君が、やがて私の「プロ」の世界への足がかりをくれることになります。
(そこに至るには、さらに、3段階くらいのプロセスがあるわけですが)
楽器店のフライヤーを引きちぎって電話をかけたあの瞬間、私は、違う世界線に飛び込んだのだと、今でもそう思えるのです。
立派な顔してやってくる「転機」なんて、ない気がします。
閃いたら、即行動する。
何が起きるか、やってみないとわからない。
出会いは向こうからやってきてくれるわけでも、誰かがさしだしてくれるわけでもない。
行動しなければ、なにも変わらない。
たいがいのことでは死なないものです。(弊社比)
死ななきゃ人間、なんとでもなります。(長生きしたから、そろそろ言ってもいい)
あの頃のことを思うほどに、不思議な気持ちが湧いてきます。
続きを、また、書きますね。

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