「ダメ出し」は信頼の証し(あかし)!
レコーディングなどで、歌っている最中、
自分自身が、「あ、イマイチだ」と思った歌が、
後から聞き返したら、めちゃくちゃよかった、などということは、
まず、絶対にありません。
自分が「イマイチだ」と思ったときは、
だから、どれだけディレクターやアレンジャーが「OKです」と言ってくれても、
絶対にやり直すことにしています。
これは、もう絶対です。
若かりし頃、自分ではイマイチでは?と思った歌を、
「いや、いい感じでした!」と言うディレクターのことばに負けてOKし、
そのイマイチな部分が、めちゃくちゃ露出の多いCMに、何度もコピペされて使われて、
テレビでそのCMが流れるたびに、身をよじる思いをした苦い経験があるからです。
反対に、「今の、すっごいよかった」と、やった感満載で歌い終えて、
ちっちゃくガッツポーズを決めようとした刹那、
コントロールルームから、
「今の感じで、もう一回お願いします」的な指示が飛んできて、
ありゃ・・?なんてことは、普通にあります。
正直、えー?とがっくりくることもあるし、
自分ではいいと感じているのに、あまりにも録り直しが続くと、
だんだん、「いったいなにがいけないのよ!?」と、
気分が腐ってくることもあります。
なにしろ、こちらは生身の楽器です。
レコーディングでは、圧倒的な集中力を要求されますし、
一瞬入魂くらいエネルギーを入れて歌っていますから、
今以上の歌を歌えるだろうか?という不安も、
声は大丈夫か?集中力は出せるか?という不安もあります。
「一生OKの出ない地獄」にたたき落とされたような気分になることも、
本当にありました。
しかし、です。
お互いの描いている着地点というか、
歌に抱いているイメージが食い違っているときは別ですが、
(そして、そういう時も多々ありますが)
見えているゴールは一緒なのにダメ出しされるときは、
悔しいけど、やっぱり、ダメな理由がある。
だって、OKを出す方が簡単だからです。
「OK」には、心の底からあふれ出る「いい!」もあれば、
「こんなもんでいいか」のOKも、
「うーん、まぁ大丈夫かなぁ」のOKもある。
「OK」を出せば、相手の気分を害することも、
エンジニアさんの手を患わせることも、
どこがどう悪いからどう直さなくちゃ、みたいな説明をする必要もない。
時間も、労力も、もちろんお金も節約できて、
楽しく現場を終えられるんだから、こんなに楽なことはありません。
ディレクターの心の中では、
もう1回やらせることで、もっとよくなるのか、今より悪くなるのか、
後どのくらい、歌わせられるか、この辺が限界か、などなど、
さまざまなせめぎ合いがある。
少しでもいいものをつくるため、
ヴォーカリストのよいところを、ちょっとでも引き出すために、
ギリギリの駆け引きをしているわけです。
結局、最後は、信頼関係です。
どこまでお互いの技術や感覚を、人間性を、信じられるか。
仕事人としての、その人を信じられるか。
その人の、作品力を、アーティスト力を信じられるか。
音楽は、たった一人で成立するものではありません。
作品も、パフォーマンスも、結局最後は人間関係。
信頼できる人と出会うこと。
そんな素晴らしき人たちに、信頼される人であり続けること。
一生修行です。
■無料メルマガ『声出していこうっ』。プライベートなお話からマニアックなお話まで、ポップな感じで綴っていきます!(ほぼ)毎週月曜発行!バックナンバーも読めますよ。
関連記事
-
-
ミュージシャンの「ステータス」も数字?
ビジネスの世界で活躍している男性たちを見ていると、 日々、華やかな数字の話ばかり …
-
-
ピッチが悪いの、気づいてます?
少し前のこと。 知人に誘われたとある会社のパーティー会場の片隅で、 いきなりジャ …
-
-
ことばにするチカラ
「天才は教えるのが下手」と言われます。 だって、普通にできるから、 どうしてそれ …
-
-
寝かしても、修正しても、ダメなアイディアはダメである。
ブログの更新が滞っている時は、 たいがい、Upしようとした記事を途中でボツにして …
-
-
「音楽はひとりではできない」の本当の意味
サポート・コーラスのお仕事で日本全国をツアーしていた頃。 ツアー先の地方の会館に …
-
-
「クリエイトすること」はゴールではない
「どんな仕事に携わっていても、何をクリエイトしていても、 大切にすべきことの本質 …
-
-
「伝える力」と「届ける力」
2007年に起業セミナーというものにはじめて参加してから、 出版関係のセミナー、 …
-
-
オトナなんて怖くない。〜アーティストたちの「大物」エピソード〜
これまで、たくさんのアーティストやその卵たちの指導をしてきました。 関係者の方た …
-
-
「こんなもんでいいか・・・」の三流マインドを捨てる!
NYのドラムフェアで、テリー・ボジオのクリニックを見たときのことです。 すべての …
-
-
本当に大切なことは現場が教えてくれるんだ。
某映画のバンド演奏のシーンの撮影に立ち合ったことがあります。 役回りは、出演者の …