大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「お前さ、営業の電話なんかかけてくるんじゃねーよ!」

   

ミュージシャンって、自分で自分のこと宣伝するの、
恥ずかしいと思うようなところがあるんですよ。
いや、昭和のミュージシャンは、というべきか。

「そもそもさ、売れてるミュージシャンは、
自分の名前名乗る必要ないでしょう」

確かに。

現場じゃ、音と顔と名前は一緒に覚えてもらうものだし、
いい音出してれば、「これ誰だろ?」ってちゃんとクレジット確認してくれたり、
クチコミで誰かに聞いてくれたりするもんね。
メディアに出てれば、顔だって知られていて当たり前だし。

そういえば、トシちゃんは、スタッフ挨拶で、
「言わずと知れた、田原です」って言ってたっけ。

「名刺持ってるようなミュージシャンなんて、
自分が売れてませんって宣伝しているようなもんだ」
なんて、意地悪なことを言う人もいたものです。

え?でもさ、メジャーアーティストでもない、
事務所もない、いちミュージシャンが、宣伝も何にもしないで、
どうやって自分のことを知ってもらえばいいの?

 

駆け出しで、全然お仕事がなくって、途方に暮れていた時のこと。

できることは全部やってやる!と腹を決め、
知り合いのミュージシャンに片っ端から、
いわゆる「営業電話」をかけようとしたことがあります。

椅子の上に電話機を置いて、床に座り込んで、手帳を開いて、
手始めに、知り合いの先輩ミュージシャンに、
テキトーな理由を考えて電話をかけました。

ひとしきり世間話をして、切りぎわに勇気を出して、
「なんかお仕事あったらお願いします」と言ったとたん、
先輩の声色が変わりました。

「お前さ、営業の電話なんかかけてくるんじゃねーよ。似合わねーぞ」
耳まで赤くなったに違いありません。
「いえ、そんなつもりじゃ、あ、ではこれで・・・」と電話を切って、
猛烈に凹みました。
結局、その1本きりで心が折れてしまいました。

 

しかし、です。

宣伝とか営業って、
どんな仕事でも実は真っ先にくるもの。

自分自身が自信を持って提供できるものを、
人に「食べて」とか「聞いて」って言うことって、
恥ずかしくないどころか、むしろ当たり前。

どんなに最高の商品をつくったって、
びっくりするくらい美味しいレシピで食事を提供してたって、
誰にも言わずに、こっそりひっそりお店をやっていたら、
その商品を手に取って喜んでくれる人にも、
美味しい!と感激してくれる人にも、出会えるわけはありません。

だからさ、なんっにも恥ずかしいことじゃない。
むしろ、これがちゃんとできなくっちゃ、
どんな仕事でも、
たとえ、アーティストでも、ミュージシャンでも、
やっぱりダメだと思うわけです。

肝心なのは、その方法とタイミング、そして相手。
件の営業電話は、そのすべての点で0点どころか、
マイナス30点くらいでした。

そもそも、困っている。自信もない。
そんな時って、何を言っても、そこはかとなく卑屈な匂いが醸し出されます。
Loser臭というのかな。ダメな時って、ホント、そう。
自分が価値がないと思っているものを、この場合は自分自身ですが、
人に売りつけることは不可能です。

言うに事欠いて、
「お仕事ください」なんて、最悪のセリフです。

「お仕事ないんです。
お仕事でやっていかれるかどうかもわからないんです。
だから、助けてぇえええ〜〜!」って言ってるようなもん。
顔洗って出直してこいっ!ですね。
あぁ、恥ずかしい。

自信がなくて、何をしたらいいのか途方に暮れているなら、
回りくどいいい方をせず、
まずは、成功している人に、
どうやったらもっと価値を高められるか、
どうしたら自分をもっと知ってもらえるかを、
素直に聞くべきです。

教えを乞う。
そして、教えてもらったことを、片っ端からやる。
これが最短最速です。

これができないと、
膨大な時間とエネルギーをつかうことになります。
かかなくていい赤っ恥もいっぱいかくので、
よっぽどガッツがある人でない限り、
どこかで挫折してしまうでしょう。

そして、これが肝心なんですが、

1回や2回、人にネガティブなことを言われたくらいで、
自分を人に知ってもらおうという努力をあきらめないことです。

思い返せば、その時電話した先輩は、
業界のど真ん中でお仕事をしていたわけでも、
メジャーの仕事をガンガンこなしていたわけでもありませんでした。
先生をやりながら、ライブ活動をしている、
「武士は食わねど」的な、昔堅気のミュージシャンです。
そんな人に営業電話なんかすれば、叱られるのは当たり前。

そもそもの、「そも」から、
なにもかも大間違いのこんこんちきだったわけです。

あの頃の自分に会ったら、
まずはパソコンの前に座らせて、
Facebookとか、YouTubeとか見せながら、
「こういうことよ、あーた」と、死ぬほど説教してあげたい。

そして、
「方法論は違っても、大事なことの本質は同じだからね」と、
エールを送ってあげたいなぁと、思ったりするわけです。

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