「お前さ、営業の電話なんかかけてくるんじゃねーよ!」
ミュージシャンって、自分で自分のこと宣伝するの、
恥ずかしいと思うようなところがあるんですよ。
いや、昭和のミュージシャンは、というべきか。
「そもそもさ、売れてるミュージシャンは、
自分の名前名乗る必要ないでしょう」
確かに。
現場じゃ、音と顔と名前は一緒に覚えてもらうものだし、
いい音出してれば、「これ誰だろ?」ってちゃんとクレジット確認してくれたり、
クチコミで誰かに聞いてくれたりするもんね。
メディアに出てれば、顔だって知られていて当たり前だし。
そういえば、トシちゃんは、スタッフ挨拶で、
「言わずと知れた、田原です」って言ってたっけ。
「名刺持ってるようなミュージシャンなんて、
自分が売れてませんって宣伝しているようなもんだ」
なんて、意地悪なことを言う人もいたものです。
え?でもさ、メジャーアーティストでもない、
事務所もない、いちミュージシャンが、宣伝も何にもしないで、
どうやって自分のことを知ってもらえばいいの?
駆け出しで、全然お仕事がなくって、途方に暮れていた時のこと。
できることは全部やってやる!と腹を決め、
知り合いのミュージシャンに片っ端から、
いわゆる「営業電話」をかけようとしたことがあります。
椅子の上に電話機を置いて、床に座り込んで、手帳を開いて、
手始めに、知り合いの先輩ミュージシャンに、
テキトーな理由を考えて電話をかけました。
ひとしきり世間話をして、切りぎわに勇気を出して、
「なんかお仕事あったらお願いします」と言ったとたん、
先輩の声色が変わりました。
「お前さ、営業の電話なんかかけてくるんじゃねーよ。似合わねーぞ」
耳まで赤くなったに違いありません。
「いえ、そんなつもりじゃ、あ、ではこれで・・・」と電話を切って、
猛烈に凹みました。
結局、その1本きりで心が折れてしまいました。
しかし、です。
宣伝とか営業って、
どんな仕事でも実は真っ先にくるもの。
自分自身が自信を持って提供できるものを、
人に「食べて」とか「聞いて」って言うことって、
恥ずかしくないどころか、むしろ当たり前。
どんなに最高の商品をつくったって、
びっくりするくらい美味しいレシピで食事を提供してたって、
誰にも言わずに、こっそりひっそりお店をやっていたら、
その商品を手に取って喜んでくれる人にも、
美味しい!と感激してくれる人にも、出会えるわけはありません。
だからさ、なんっにも恥ずかしいことじゃない。
むしろ、これがちゃんとできなくっちゃ、
どんな仕事でも、
たとえ、アーティストでも、ミュージシャンでも、
やっぱりダメだと思うわけです。
肝心なのは、その方法とタイミング、そして相手。
件の営業電話は、そのすべての点で0点どころか、
マイナス30点くらいでした。
そもそも、困っている。自信もない。
そんな時って、何を言っても、そこはかとなく卑屈な匂いが醸し出されます。
Loser臭というのかな。ダメな時って、ホント、そう。
自分が価値がないと思っているものを、この場合は自分自身ですが、
人に売りつけることは不可能です。
言うに事欠いて、
「お仕事ください」なんて、最悪のセリフです。
「お仕事ないんです。
お仕事でやっていかれるかどうかもわからないんです。
だから、助けてぇえええ〜〜!」って言ってるようなもん。
顔洗って出直してこいっ!ですね。
あぁ、恥ずかしい。
自信がなくて、何をしたらいいのか途方に暮れているなら、
回りくどいいい方をせず、
まずは、成功している人に、
どうやったらもっと価値を高められるか、
どうしたら自分をもっと知ってもらえるかを、
素直に聞くべきです。
教えを乞う。
そして、教えてもらったことを、片っ端からやる。
これが最短最速です。
これができないと、
膨大な時間とエネルギーをつかうことになります。
かかなくていい赤っ恥もいっぱいかくので、
よっぽどガッツがある人でない限り、
どこかで挫折してしまうでしょう。
そして、これが肝心なんですが、
1回や2回、人にネガティブなことを言われたくらいで、
自分を人に知ってもらおうという努力をあきらめないことです。
思い返せば、その時電話した先輩は、
業界のど真ん中でお仕事をしていたわけでも、
メジャーの仕事をガンガンこなしていたわけでもありませんでした。
先生をやりながら、ライブ活動をしている、
「武士は食わねど」的な、昔堅気のミュージシャンです。
そんな人に営業電話なんかすれば、叱られるのは当たり前。
そもそもの、「そも」から、
なにもかも大間違いのこんこんちきだったわけです。
あの頃の自分に会ったら、
まずはパソコンの前に座らせて、
Facebookとか、YouTubeとか見せながら、
「こういうことよ、あーた」と、死ぬほど説教してあげたい。
そして、
「方法論は違っても、大事なことの本質は同じだからね」と、
エールを送ってあげたいなぁと、思ったりするわけです。

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