大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「大きい音」を扱うのって、テクニックがいることなんですぞ。

   

「ラウドな音楽をやっている」と言うと、
デリカシーのない、
雑な演奏をしていると感じる人が多いようですが、

(ま、そういう「ラウド」もいっぱいありますが)

実は、「大きい音」を扱うことは、
意外なくらい、神経をつかう、
そして、テクニックを要することなのです。

少し前、ライブのリハ中に、
ちょっとおちゃらけて、
「音のでかいギターリスト」の代名詞のように言われる、
ジェフ夫さんのギターを弾いてみたことがあります。

いや、
「弾いてみようとしたことがあります。」が正しい。

そしたら、あろうことか、
ボリューム上げて、
コードを一発弾いたとたんに、
マーシャルが全力でハウりまして・・・。

ポキィイイイイイ、グゥイイイイイイ〜〜〜、バキ〜〜〜〜

全く音楽にならないんです。

「キミ、一体、どんなん弾いてるの・・・?」
と思いましたが、
しかし、ジェフ夫さんが弾くと、
バキッと、いつものジェフ・ベックの音。

へーー。
「大きい音のギター弾くのって、難しいのね。。。」と、
シロウトくさ〜い、感動を覚えたものです。

こんなこともありました。

某爆音バンド時代。
リハ中に、バンマスが、
いつもお手伝いしてくれるファンの男の子に、
「(私の相方の代わりに)歌ってもいいぞ」と言ったことがあります。

相方の大ファンだった彼は、
それはもう有頂天になってステージの上に上がってきました。
そして、顔を真っ赤にして、必死に歌いはじめました。

しかしです。

彼の声は、バンドの爆音にかき消されて、
全く、聞こえてこないのです。
全くです。

一緒に歌っていた私の声はバキーンとモニターから返ってきます。
スタッフが意地悪しているのじゃないかと思ったくらいですが、
彼のマイクは、もちろん、いつも相方が歌うように、
きちんとセッティングされていました。
彼自体、そんなに、声が小さい子ではありませんでした。
それなのに、です。

自分たちのバンドの音量のでかさを再確認して、
呆れた瞬間でもありましたが、
なによりも「大きい声」で歌うって、
難しいことなんだなぁと、他人ごとのように思ったものです。

音量の大きなバンドで歌っている人の中には、
やたらピッチの低い人もたくさんいます。

バンドの爆音に負けないように、
一所懸命がなっているうちに、
声帯様が分厚くなって、
自由な動きを阻害されてしまう。
だからピッチがあたらなくなるのです。

さらに、強い息を吐き続けるから、
声帯様を痛めてしまう。
声がガラガラになってしまう。

悪いことに、
「ロックの人は、みんなそうやって声を枯らしているんだ」
という間違った認識があったりして、
そのまま、声帯様を痛めてしまいます。

そこに、タバコやアルコールという、
古い時代の「ロックの美学」が絡んでくるから、
たまったものではありません。

声がガラガラ、スッカスカになって、
高い声どころか、まともに「楽音」が鳴らせなくなった状態を、
「ロックっぽい」とか、「ジャニスジョップリンみたい」
と、勘違いしちゃうひともたくさんいます。

大きい声量を扱うには、
正しい知識とテクニックが必要なのです。

声帯様と正しくつきあい、
トレーニングを怠らなければ、
どんなに声量をあげても、
ピッチはきちんとあたりますし、
何時間歌っても、声が枯れることはありません。
高い声だって、どんどん出ます。

「大きい音の音楽」も、なかなか深いんですのよ。

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