基準が曖昧なものほど奥が深いのだ
「おじょうちゃん、いい青に塗っといたよ。」
土建屋を営んでいた実家に出入りしていた職人さんに、
本棚をつくってもらったときのことです。
物置の改造という形で、
やっとの思いで、つくってもらった音楽室。
テーマカラーはブルー。
壁紙も、クッションも全部ブルーを選びました。
当然、そこにおくべき本棚もブルー。
自分でサイズを測り、
父に教わって設計図面らしきものをつくり、
ついに完成した本棚。
せっかくだから、と、
ペンキは専門外の職人さんでしたが、
気を利かして本棚を塗ってくれるというので、
「青く塗ってください」とお願いしたのです。
「おじょうちゃん、いい青に塗っといたよ。」
中学校から帰った私に、得意げに言う職人さん。
しかし、です
どう見ても、「緑」。
「みどりいろ」なのです。
いい色だろ〜。いい青だろ〜。
自分の作品にご満悦の職人さん。
ショックだったのもありますが、
なんと言っていいのかわからず、
ただ、「ありがとうございます」と言ったのを覚えています。
何年も経って、
その職人さんは色弱だったのかもしれないと思い至ってからもなお、
人の感覚の曖昧さへの不思議な気持ちは増すばかりです。
「青」ってなんだろう?
私が見ている「青」って、
他の人にとってどんな色なんだろう。
基準が曖昧なのは「色」だけでなく、
「音色」もおなじです。
いい音ってなんだろう?
いい歌ってなんだろう?
あたしに聞こえる「音」は、
他の人の耳にはどんな風に聞こえるんだろう??
基準が曖昧なものほど奥が深いものです。
今の時代、
ピッチもリズムもダイナミクスも、
歌のうまさは、たいがい数値で説明できるものだけど、
数値化できない「なにか」こそが、
自分自身にとっての、
音楽の、歌の、本当の価値を決める。
そして、それは100%パーソナルなもので、
他の人と100%おなじものを共有しているというのは幻想で。
だから音楽って面白いんだなぁ。
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