大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ただ、情報としてそこにあるだけでは、 何の価値もない。

   

自分自身の音楽の世界を広げるためには、
慣れ親しんだ音楽ばかりを繰り返し聞くだけではなく、
これまで触れたことのない音楽と出会っていく必要があります。

とはいえ、ネットサーフィンをしているだけ、
ラジオなどを垂れ流し的に聞いているだけでは、
「運命を変える電撃の出会い」が起こる確率は非常に低い。

もちろん、人にすすめられた曲を、
ランダムに聞いていればいいというものでもありません。

 

私の実家には大きな本棚があって、
本の大好きな父が、若かりし頃から読んださまざまな本が、
すし詰め状態になっていました。

その本棚は物心ついた頃からそこにあります。

もちろん、なんの興味も湧きません。

父が、どんなに本のよさや、
楽しさを教えてくれようとしても、
子供心に、文字ばっかりの本なんか、
難しくって、つまらないだけだと、ずっと思っていました。

 

中学時代のある日、
同級生が楽しそうに読んでいる本を見て、
「あれ?この作家の名前、どこかで聞いたことがある。」と思い、
父の本棚を探すと、
そこに、山ほど、その作家の本が並んでいました。

同級生が面白いと思うんなら、
あたしだって面白いと思うかも・・・

それが、父の本棚の本を次々読みあさるきっかけになりました・。

ずっとそこにあった本。
その価値に気づかせてくれたのは、友達だったわけです。

 

本でも音楽でも、
ただ、情報としてそこにあるだけでは、何の価値もない。
感情移入できるきっかけがあるか否か。

ポイントはそこです。

 

全く興味のなかったバンド、
どちらかというと好きじゃなかった歌手も、

たった1曲にずどんと心を射貫かれた瞬間から、
すべての曲がカッコよく聞こえてきたりする。

そのバンドに夢中になっている友人に、
とうとうとよさを教え込まれて行くうちに、
どんどんのめり込んでしまうこともある。

家族や彼氏、彼女がその歌手を大好きで、
無意識に聞いているうちに、
曲名を覚え、歌詞を覚え、
気づいたら好きになっていた、というパターンもあるし、

バンドの選曲に誰かが入れていて、
みんなと演奏してみたら、
すごく気持ちよくて好きになった、
というパターンもある。

 

感情移入できた音楽こそが、
自分の血となり、肉となっていく音楽となる。

そして、感情移入が起きる多くの場合、
そこには、人の存在がある。

どんなに便利な時代になっても、
音楽を語り合える友を持つこと、
音楽好きな人が集う場所に出入りすることの大切さは不変なのです。

◆読むだけヴォイトレ【メルマガ365】。「こだわりの完コピ」シリーズをお届け中。ご登録はこちらから。

 - 音楽

  関連記事

「音楽の楽しみ方は自由」って言いますけど。

1970年代。 世界的アイドルとなったベイシティローラーズ。 日本公演が決まって …

声の温度。歌の肌触り。音の匂い。

ボタンひとつで音色を自在に変えられる、 いわゆるデジタル・シンセサイザーが登場し …

コンサートの楽しみ方は、ホントにいろいろ

仕事柄いろんなコンサート会場に足を運んできました。 その度に、コンサートの楽しみ …

「バンドとやる」の本当の意味

大学の授業に「アンサンブル・レッスン」というのがあります。 なんだかカチッとした …

歌うときのオケ、どうしてます?

さて、ある程度練習が進んだら、 オケに乗せて、自分の歌を録音してみたいもの。 & …

リズムが悪いと言われたら真っ先にすること。~Singer’s Tips#10~

「リズムが悪い」と言われた時、 真っ先に点検すべきは、 点=ビートを捕らえられて …

「いつはじめるか」じゃない、 「いつまで続けるか」が重要なのだ。

「やっぱりピアノは幼稚園くらいからはじめないと、モノにならないわよ。」 &nbs …

音楽は進化を続けている

「最近どんなの聞いてるの?」 若いアーティストたちのカウンセリングで、 彼らの好 …

音楽時間を最大化するためのコツ。

仕事の精度の高い人は、切り替えがうまい。 昨今、私の周辺の「できる人」を見ている …

自分らしく歌う。 自分であるために歌う。 ありのままの自分で歌う。

「ちゃんと勉強した人が綺麗な声できちんと歌う」っていう、 従来の音楽的価値観をぶ …