自分にない価値観を学ぶのが学習ってもんだ
大学で2年生のアンサンブルという授業を担当しています。
用意された課題曲を、
楽器科、ヴォーカル科が共に、バンド形式で演奏し、
アンサンブルスキル、コミュニケーションスキルを学ぶという、
なかなかためになる授業。
ヴォーカル科と楽器科の講師がそれぞれひとりずつ、
一組になって指導にあたります。
この授業で毎年苦心するのが課題曲の選曲です。
講師たちは、それぞれの音楽経験やスキル、知識を元に、
音楽を学ぶなら、ここは押さえておかなくちゃ、
というテーマにそって、悩みながら曲を選びます。
系統立てた学習方法が確立されているクラシックと違い、
ポピュラー音楽の学習はほとんどが講師依存。
だからこそ、
できるだけ偏らないように、
できるだけ若者にも分かりやすい曲を、
とはいえ、学生に媚びないように、
などなどと、苦心するわけです。
洋楽偏重の時代は終わったと言え、
ポピュラーの世界で、
世界的な名曲と名を馳せる音楽は、
まだまだ欧米の音楽が主流。
ヴォーカリストに至っては、
日本の場合、「味系」が中心で、
テクニックや表現力を学ぶ題材とするには、
いかにも弱すぎます。
そんな理由から、どの学年でも課題曲の8割〜9割が洋楽。
それぞれの講師の個性が反映された選曲となるわけです。
さて。
この選曲にいちいち拒否反応を見せる学生が、
一定の割合でいます。
洋楽は嫌い。
激しい曲は無理。
英語が苦手。
こういう歌は全然入ってこない・・・
ヴォーカル科だけでも10数名〜20名前後。
その全員が好きな曲、得意な曲、
興味を持てる曲などを選曲するのは不可能です。
そもそも、好きな曲や得意な曲だけを歌いたいなら、
カラオケ屋さんに行けばよろしい。
っていうか、わざわざ大学に通って、
高〜い学費を無駄にしないで、
自分でバンドをやっていた方がよほどいい。
自分にない価値観を学ぶのが学習というものです。
かつて、ミュージシャンの先輩の家に遊びに行くと、
「これ、聞いたことないの?」
「まさか、これも知らないの?」
などと言いながら、
次から次へとレコードを(レコードです!)
聞かせてくれたものです。
このアーティストはどこそこ出身で、
誰それと出会って、こんな曲を書いて、
いついつブレークして・・・
などといううんちくを傾けながら、
聞かせてくれる方も、聞く方も、
ワクワクと楽しい時間を過ごしたものでした。
レコード棚からどんどん取り出されては、
床に乱雑に置かれていくジャケットたち。
帰る頃には床にうずたかく積まれたアルバムの山ができていました。
別にメモを取るでもない。
もちろん、ジャケットを写メったりなんてしない。
それでも、時に、強烈に印象に残る曲や、
アーティストの作品があって、
帰りがけにアルバムを貸してもらったり、
カセットに録音してもらったりして、
家に持ち帰っては聞き込んだものでした。
何十枚というジャケットの山の中にたった1〜2曲。
そんな割合だけど、
一生の宝になった曲との出会いが確実にありました。
自分自身の閉じていた、
「価値観」という目を開いてくれた感覚です。
自分では絶対に選ばない曲、
自分では知り得ない曲と出会い、
その曲の魅力を深く味わいつつ、
知識やスキルを学ぶことこそが、
音楽教育を受けることの価値です。
食わず嫌いなのか。
本当に嫌いなのか。
眺めていないで、とりあえず食べてみる。
いやーんと思いながらも、
よく噛んで、しっかり味わってみる。
なんでこんな味のもの、みんな好きって言うのかしら?
と悩んでみる。
どうしてもダメならマヨネーズをかけたり、
お醤油をかけたりしてみる。
好きを極めるのと同じくらい、
嫌いを極めるのも学習の一部。
なんだって、徹底的にやることに意味があるんですね。
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