大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「中上級の壁」を越えるための5つのポイント

      2024/04/28

今日は午前中から、外資系企業でバリバリと働く才媛かつ、美しき女性シンガーAさん、そして、大阪から深夜バスに乗ってやってくる、育成期間中のバンドのヴォーカリストYくんのレッスンがありました。

音楽歴も長く、いろいろな意味でポテンシャルの高い彼らに、目下全力で取り組んでもらっているのは、自分自身の持っているリソースのすべてを、いかにその瞬間瞬間の歌のパフォーマンスに注ぎ込むか。

いい声を持っている。
自分のどんな声がいい声で、どうするとそれが出るのかも知っている。
ピッチよく歌える。
リズムやグルーヴというものを理解している。
音楽的にカッコいいものをたくさん聞いてきたから、自分なりの正解を持っている。

後は、それらリソースを統合して、どんな瞬間も最大限に生かすこと。

この壁を超えると、一気に上級者フェーズに入って行きます。
つまり、歌い出した瞬間に、自分という楽器の最もよい音を捕らえ、気持ちよいピッチやリズムで、目的のメロディを歌える。グルーヴやフレーズを適確に表現できる。という状態です。

そのために取り組んでいることは5つ。

  1. 自分という楽器の最良の音を、どんな瞬間も取り出せるように、心身を整え、コツをつかむ。
  2. 曲のストレート・メロディをはっきりくっきり、ことばを取っ払って歌う。
  3. ことばを乗せ、発音をくふうして、音楽的表現を高める。
  4. オケをしっかり聞いて、グルーヴや求められるフレージングをつかむ。
  5. ひとつひとつのフレーズをどんな風に歌いたいか、それはどう歌うと効果的かを明確にする。

後はひたすら、イメージ通りに歌えるように、繰り返し歌うのみ。
2人とも会うたびに、メキメキ実力を上げています。

こんなことを書くと、「え?それって、上級者向けレッスンじゃないんですか?」と言われそうですが、ごめんなさい。私はプロフェッショナル基準なので。
学校での採点も、超辛口なことで有名でした。
だってぇ〜。
神様からもらった才能を、最大限生かして欲しいんだもん。

上級者フェーズは、”More”です。
「もっと、こう歌いたい」「さらに、こんなことを叶えたい」…etc.
そのレベルになってくると、アーティスト力だったり、プロデュース力だったりの領域になるので、こちらが要求するというよりは、本人やディレクターさんたちの要求に応えられるようにサポートするというフェーズに入るのがメインです。
あ、ちなみに、上級者フェーズにはいっても、中上級者フェーズを完全に卒業している人は、プロにもほとんどいません。
っていうか、そのレベルの人はトレーナー、いらないでしょう。

目の前に立ちはだかる壁に気づけるか?
立ち向かう勇気とガッツを持てるか?
そして、なにがなんでも越えられるか?

こう考えると、私の仕事って、「この壁が見えないか!?」と目の前にある壁に生徒の額をぐりぐり押しつけたり、「何が何でも越えろ!いや、お前ならやれる!」とばかり、後ろからお尻を蹴飛ばしたりする、まぁまぁ、激しい、ドSなお仕事なんですわね。
今さらですけど・・・。


■無料メルマガ『声出していこうっ!』。
ブログから踏み込んでディープなお話や、セミナーや講座、スクールなどの情報もお届けします。ご登録いただいた方全員に、『朝から気持ちい声を出すためのモーニングルーティン10』をプレゼント。バックナンバーも読めますのでぜひ。ご購読はこちらから。

Angry and pensive adult young woman leaning head against a brick wall, reflecting on her sadness and inner personal crisis.

 

 

 - MISUMIの日記&メッセージ, The プロフェッショナル, ある日のレッスンから, 歌を極める

  関連記事

「プロじゃない」から、すごいんだ。

最近、セミナーや講演を通じて、 全国の音楽愛好家の方たちと接する機会が多くなって …

正しい「シャウト声」の出し方!

高校時代の自分のバンドのライブ音源という、 恐ろしいものが存在しています。 少し …

「もっと心をこめて歌ってよ」!?

「歌は心」的な話は苦手です。 心をこめて歌おう、 情感たっぷりに歌おうとがんばる …

ミュージシャンの「ステータス」も数字?

ビジネスの世界で活躍している男性たちを見ていると、 日々、華やかな数字の話ばかり …

「先生」と呼ばれたら、自分の胸に問うべき質問。

人には誰にも、その人特有の成長のスピードというものがあります。   小 …

「ミュージシャンズ・ミュージシャンなんか嫌じゃい!」

「ミュージシャンズ・ミュージシャン」ということばを聴いたことがあるでしょうか? …

こんな人は、ボーカリストに向いている!?

仕事の向き不向きは、その人の体格や、 持っているスキルだけで決まるものではありま …

ヴォーカリストだって、もっと「音色」にこだわる!

「ロックは出音とグルーヴ、ステージプレゼンス」 と繰り返し書いてきました。 筆頭 …

大どんでん返し!?

『宇宙戦争』というSFの父、H・G・ウェルズの名作小説があります。 ネタバレを承 …

“なんちゃってコピー”は、いい加減卒業する。

賛否両論あると知りながら、 ここでたびたび完コピについて取り上げるのは、 今も昔 …