「その気」にさせてくださる?
代理店のプロデューサーアシスタントをしていた時代、
ヨーロッパ向けCMのレコーディングの立ち会い兼通訳で、
ロンドンに同行させてもらったことがあります。
某自動車メーカーの大がかりなCM曲で、ディレクターはMoodswing(ヴォーカルは元プリテンダーズのクリッシー・ハインズ)などのプロデュースを担当したグラント・ショービズ。
有名なマトリックススタジオでのセッションということで、
それはそれは、ピリピリした現場を想像していた私。
ところがです。
レ コーディングが始まるやいなや、
ヴォーカリストを褒めちぎるグラントの、
カジュアルでリラックスしたアチチュードで、
現場は一気にいいムードになりました。
“Marvelous! Brilliant! Fantastic! Lovely!”
英語ってそんなに人を褒めちぎる単語があるんだと思うくらい、
褒め言葉のオンパレードで、
思わずクスッと笑ってしまうほどでした。
当時、日本では、そこそこレコーディング経験のあった私。
それでも、歌い出した瞬間から、
こんな風にヴォーカリストを褒めちぎるディレクターに、
私は会ったことがありませんでした。
平均的な日本のディレクターは、
まず、ダメ出しから入ります。
「概ねいいけど、Bメロが・・・」とか、
「もうちょっと声張っていきましょうか」とか。
まぁ、律儀な国民性と、
ちゃんとしたものつくらなくちゃという責任感からか、
そう簡単に、誉めてはくれません。
誉めると言っても、せいぜい、「OKです。」です。
この際だから言っちゃうと、
「OK」は誉めことばではありません。
「OK」は「レベルに達している」ということ。
「いいんじゃない?」的な意味です。
誉める気持ちを表現するなら、
やっぱりグラントみたいに、
“Beautiful! Wonderful!Great!”とやらなくちゃいけない。
そして、誉められていい気になると、
いい仕事ができるのは、世界各国、誰でも共通です。
最初は今ひとつぐっとこなかったその時のヴォーカリストの歌も、グラントのおかげで、みるみる生き生きと、素晴らしいものになったのでした。
心にもないことを言えというのではありません。
厳しいことを言うことで育つ人もいます。
しかし、やっぱりね。
いい仕事をするには、自信が大切。
「大丈夫かな?ちゃんとできるかな?」
という不安を抱えたまま、いい仕事は絶対できません。
人を被写体にするカメラマンの仕事は、
いいタイミングでシャッターを切るだけじゃなく、
いかに被写体をその気にさせるかと言われています。
以前、アーティスト写真でお世話になったカメラマンさんは、
それはもう誉め上手。
「うん。魅力的だね〜。あ、今の顔、セクシーだ。綺麗だよ。」
いや。わかってますよ。
それは、カメラマンさんの条件反射のようなもので、
シャッターに手がかかった瞬間に、
思わず誉めことばが口から出ちゃうのだということくらい。
それでも、なんでも、なんだか「その気」になる。
アー写には自信のなかった私ですが、
その時の写真は今もなかなかのお気に入りです。
ダメ出しは冷静に。論理的に。
誉めるときは、思いっきり感情に訴える。
人の心を動かす秘訣です。
◆ 【第4期 MTLヴォイス & ヴォーカル レッスン12】本日お申し込み終了です。
◆通えないという理由でレッスンをあきらめていた方のために【MTL Online Lesson12 10月生受付中!】
◆コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』。限定公開のレッスン映像もごらんいただけます。購読はこちらから。
関連記事
-
-
わかりやすくうまい人 vs. さりげなくうまい人
「歌のうまい人」には2種類います。 ビヨンセやホイットニーやアギレラみたいに、 …
-
-
プロ、セミプロ、セミアマ?ミュージシャンの働き方
高校時代、一緒にバンドをやっていた仲間のひとりに、 フリーターをしながら、あちこ …
-
-
一生OKの出ない地獄
「あ〜、今のとこ、ちょっと音取れてないみたいなんで、 もう1回お願いします。」 …
-
-
歌がうまくなりたいなら、そろえるべきアプリ10選!
今日はヴォーカリストやトレーナー、歌がうまくなりたい人が持っていると便利なお勧め …
-
-
プロフェッショナルの徹底ピアノ調整!
10月末から1週間ほど休業&家を留守にするということで、 思い切って、ピアノの一 …
-
-
慣れない。飽きない。手懐ける。
先日、母と出かけた、とあるテーマパークでは、 野外で、一日中フリーコンサートを聞 …
-
-
そのフレーズ、きっちり弾かなきゃいかんやろ?
来週ライブの、JEFFOBAND(ジェフ・オー・バンド)のリハでした。 長年一流 …
-
-
音楽を「職業」にしないという選択
若い頃から音楽を志して、寝る間も惜しんで練習や創作、 ライブ活動に打ち込んで来た …
-
-
上澄みをすくい取って「わかった気」にならない。~Singer’s Tips#21~
ちょっと昨日のブログの続編的なお話です。 ひとつの曲が生まれて、 受け手の手元に …
-
-
口コミしたくなる仕事をするのだ
ミュージシャンでも、著者でも、セミナー講師でも、 フリーランスとして仕事をする人 …
- PREV
- あなたの楽器、いい音出てますか?
- NEXT
- 「僕、ミュージシャンでやっていけるでしょうか?」