大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

音色の決め手は「箱」なんじゃ。

   

昨日、「音」はプレイヤーの命であるというお話をしました。

声は持って生まれるものでしょ?
「音」すなわち「声」が決め手になってしまうなら、
歌なんか、どんなに練習したってダメじゃん。

そんな悲観的な声が聞こえてきそうです。

では、
「音色」は何が決めるんでしょう?

かつて私は、
「音色や音量は体重が決めるのだ幻想」に捕らわれていました。

だから、自分の小さなカラダにコンプレックスを感じ、
長身の人や、胴回りの分厚い人に、
心から憧れて、太ろう、でかくなろうと、
運動と食に励んだりしました。

しか〜し。
ちょっと待って。

冷静にまわりを見渡せば、
お相撲さんのような立派な体格なのに、
蚊の鳴くような声しか出ない人や、
190センチもあるような巨漢なのに、
もこもこ声がこもった人はいくらでもいます。

反対に、身長が小さくたって、
ライオンのような音量の出る人、
重厚なサウンドの出せる人はいます。

ちなみに、ググってみたところ、
私のアイドル、ティナ・ターナーの身長は163センチ。
あの、チャカ・カーンは162センチだそうです。

Googleのない時代、
彼女たちはきっと、170センチ以上あるんだと、
無益に落ち込んでいた自分に教えてあげたい。。。

 

いや、そうじゃなくって、声の質を決めるのは、
体格じゃなくって、声帯様でしょ?
だから、やっぱり生まれつきってことでしょ?

なるほど、
そんな風に思いたいのもわかる。

しかし、声帯様は楽器の「弦」や「リード」と同じく、
「振動」を生み出すもの。

「よき振動」こそが「よき声の種」とすれば、
もちろん、声帯様を育み、いい状態に保つことは、
必要不可欠ですが、
それだけでは「いい音」にはなりません。

ちょっと考えてみてください。

もしも、最高級の弦を張れば、
最高級の音がするなら、
なぜ、ギターリストは、
あんなにギターそのものにこだわるのでしょう?

超高級リードを使えば、いい音になるなら、
何百万もするサックスはいらないですよね?

音色の決め手は、
共鳴腔の形と状態であるとされています。
共鳴する空間の特徴が、
すなわち音色の特徴になるのです。

かつて、佐々木硝子という会社がつくった、
ガラスのグランドピアノのお披露目イベントに
出演させてもらったことがあります。

ガラスのピアノは、
なんとも不思議な、温かい音色で、
素材が違うと音ってこんなに違うのかと
感動したものです。

つまり、ギターの弦をピアノに張れば、
ピアノのような音になり、
反対にピアノの弦をギターに張れば、
ギターのような音になる。

極論すれば、誰かと自分の声帯様を取り替えたとしても、
やっぱり自分の声になるわけです。

 

ほら、やっぱり声は生まれつきってことですよね?

 

はい。
そうとも言えるし、
全くそうではないとも言える、が正解です。

声の音色は声道、すなわち、共鳴腔の
形と状態で決まるわけですが、

人間の共鳴腔ほど、
自由自在に変化するものはないでしょう。

声帯様から上、声の出口までにある、
たくさんの筋肉や粘膜や、
歯や舌や、その他諸々、たっくさんの組織が、
一瞬一瞬その形と状態を変えてゆく。

声の音色は、自由自在に変えられるのです。

モノマネが得意な人はたくさんいますが、
どんなテクニックを駆使しても、
ギターでピアノそっくりの音を出すことはできません。

人間という楽器は、どんな楽器よりも
豊かに、さまざまな音色を表現できるのです。

「生まれつき」のせいにして、
自分自身を信じられないから、
先に進めないんですね。

カラダは完璧です。
そう信じて、前に進むのです。

◆ 一から歌を学びたいという方にも、基礎を見直したいというプロの方にも。オンラインのお得なBasic3パック

◆【ヴォイトレマガジン『声出していこうっ!me.』】
ほぼ週1回、ブログ記事から、1歩進んだディープな話題をお届けしているメルマガです。無料登録はこちらから。バックナンバーも読めます。

 - B面Blog, The プロフェッショナル, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, 声のはなし

  関連記事

「人前で歌うとき」の理想的な状態

人前で歌うとき、パフォーマンスするときに、 重要だと考えていることは3つあります …

「センス」は左脳から学べ!

「なんでそう聞こえるかなぁ?」 プロを目指して修行に励んでいた頃から、 駆け出し …

頭痛がイタい!?

ここ1~2週間、頭痛に悩まされていました。 毎朝、首がぱんぱんに張って目が覚める …

「モノマネ」で終わっちゃうからいかんのだ。

昨年から、今日に至るまで、 これまで聞いたこともなかった、 いや、むしろ逃げ回っ …

「ブログの投稿は終了したのですか?」

「ブログの投稿は終了したのですか?」 というお問い合わせをいただきました。 &n …

歌がうまくなるための「4つの要素」──練習の精度を上げるヒント

歌がうまくなるには、4つの要素があります。 どれも同じくらい大切で、それぞれ特徴 …

ぼんやりアドバイスは、時に、ただの悪口。

Radio Talkという音声サービスを、2年ぶりに再開しました。 以前やってい …

同じ音を、同じ音色、同じ音圧で、 100発100中で出す

人間のカラダは「まったく同じ音」を2回以上出すことはできない楽器。 そんなことを …

リズムが悪いのは「背骨が硬い」から?

音楽学校などでバンド・アンサンブルの指導をしていると、 一所懸命演奏する若者たち …

全集中のコツ

練習や修行が続かない、 はじめたことを最後までやり遂げられない、 がんばっても成 …