バブル期のカラオケ制作現場は、めっちゃすごかった!
「わかってんの?
プロのミュージシャンとかいうのは、歌謡曲のカラオケつくったり、
キャバレーみたいなとこで演奏したりするんだよ。
キミが思ってるようなカッコいい世界じゃないよ。」
学生時代。
プロになりたいと言う私に、友人が言ったことばです。
正直、結構衝撃でした。
具体的にどんな仕事をするのかも知らず、
「セッションミュージシャン」とか「スタジオミュージシャン」ということばに、
あこがれて、絶対プロになる!と言っていた頃です。
「でもさ。雑誌に出てくるようなミュージシャンも、
カラオケとかつくってるの?」
素朴な疑問を投げかけると、彼は困ったような顔で言ったものです。
「だからさ、そういう一流の人たちは別だろ?」
一口で音楽の仕事と言っても、それはもう多種多様です。
十把一絡げに「ミュージシャン」と言いますが、
グレードも、仕事の種類も、属している業界すら違ったりします。
しかし、そんなことは、音楽の仕事をはじめて何年も経ってからわかること。
当時の私が大嫌いだった「カラオケ」ということばを、
あえて使った彼は、よほど私に音楽をあきらめさせたかったのでしょう。
カラオケの制作がビッグビジネスという時代がありました。
大きなスタジオをロックアウトして、すべてバンド演奏でレコーディング。
コーラスから仮歌まで録って、TDして完パケ・・・実に大がかりです。
毎月定期的に何曲、いや、何十曲も制作していたので、
おかげで生活が安定していた、というミュージシャンもいたでしょう。
当時のカラオケ制作は誰もができるというものではなく、
実にプロフェッショナルなお仕事。
しかも、まだバブル期で、スタジオやエンジニアに、
毎時間、十万単位でお金を払っていた時代です。
制作会社としては、少しでも短時間に、
正確に仕事をこなしてくれるミュージシャンを頼む方が効率がいい。
ですから、曲の感じをいち早くつかんで、
譜面通りに完璧にプレイできる、仕事が早いテクニシャンがそろっていました。
日頃は、大きなツアーを回ったり、
リアル盤のレコーディングに参加したりしているミュージシャンたちが、
スケジュールの合間にお仕事していたのです。
コーラスの人たちも、
その場で譜面をばっと読んで、曲の雰囲気をきちんとつかんで、
あっという間にレコーディング終了、という実力派揃い。
確かに、「プロのミュージシャンとかいうのは、歌謡曲のカラオケつくったりしてんだ」
と言った彼のことばは本当だったわけですが、
実際に現場に入ると、そのことばに感じた「落ちぶれ感」はゼロ。
バブル期らしい立派なレコーディングスタジオに、
さまざまなスタッフやミュージシャンが出入りして、
真剣に、緊張感高く、進められる仕事は、
当時の私には、実に立派で、プロフェッショナルに感じられました。
たまたま私が関わらせてもらった現場が、
みなさんの意識が高かったのかもしれませんが、
まだまだミュージシャンとしては駆け出しだった頃に、
参加させていただいた、そのお仕事で、
私自身、実にたくさんのことを学ばせてもらいました。
たくさんの、次に繋がる出会いもいただきました。
緻密な作業に携わるほど、プレイヤーのテクニックは磨かれます。
短時間で結果を出さなくてはいけないレコーディングでは、
集中力や、瞬発力も徹底的に試されます。
カラオケの現場では、もちろん、
オリジナリティやアイデンティティを発揮できる余地はありません。
しかし、表現力はボキャブラリーであり、テクニック。
徹底したテクニックを磨くことは、
自分自身の表現したいことを細部まで過不足なく再現するのに、
必要不可欠です。
どんな仕事も、すべて自分のために与えられた成長のきっかけと思うことが、
次への道を切り開いて行きます。
それにしても、あんな贅沢なカラオケ制作。。。
今では考えられませんけどね。
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