大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「モノマネ」で終わっちゃうからいかんのだ。

   

昨年から、今日に至るまで、
これまで聞いたこともなかった、
いや、むしろ逃げ回っていたような歌を、
次から次へと聞きまくっては、コピーするという、
研究活動を繰り返してきました。

J系の曲は、完コピどころか、
お仕事以外で聞くことは、ほとんどありません。
だから、「さてと」と腰を据えて向き合うと、
何を聞いても、めちゃくちゃ新鮮。
ものすごい量の情報が流れこんで来ます。

おかげで、久しぶりに、
「一から完コピする」という感覚を思い出した次第です。

完コピ手順は、こんな感じ。

1. 紙の歌詞カードとペンを準備。

2. 曲をまずは、じっくり、繰り返し聞きながら、歌詞カードに、どんどん書き込む。
この段階では、
・歌詞のハマリ
・ブレス位置
・音の長さ
・覚えにくいところの音の行き方
・ビブラートやメリスマなどの大まかなイメージ
などを聞き取る。

3. ガッツリ音を出しながら、極々小さな声で、一緒に歌う。
思いこみで歌っていたメロディや細かいリズムのハマリなどを確認して修正。

4. 少しずつ音量を上げながら、ガッツリ歌う。
ダイナミクス、グルーヴ(音の膨らみ加減)、ことばの発音の仕方、
特に音色の変化などを重点的にチェックして、書き込みながら。

5. 一旦立ち止まって、もう一回聞き込む。
メロディの意図、歌詞の意図、歌い手の意図などを考えながら、
送り手目線で、仕掛けを紐解く。これが、めちゃくちゃ楽しいところ。

6. これまでの情報を元に何度も歌って曲に慣れる。
録音してチェックする。

7. 歌い手がどのような「感覚」で、何を感じながら歌っているのかを捕まえられるまで、歌い込む。
「感情」ではないことに注意が必要です。
歌い手の「感情」に焦点を合わせちゃうと、歌の表現が見えづらくなります。
自分の感情のレベルを自在に高めたり、沈めたりしながら、最適な表現を選び取って、
的確に伝え、聞き手の感情を揺り動かすのがプロというもの。
どんな「感覚」で歌っているのかを捕まえることで、すべての表現が腑に落ちます。

 

いかがですか?

繰り返し書いてきたように、完コピは、
歌手のうわべをおもしろおかしくデフォルメする「モノマネ」とは全く別物です。

歌い手の魅力、歌の魅力をどんどん深掘りして、咀嚼して、
完全に腑に落ちるまで、
自分の血肉になるレベルまで落とし込む。
修行です。

ここまでやって、はじめて、自分のレパートリーとして、
人前で歌えるレベルになるのです。

完コピに関しては、間もなく10万レビューになろうというこの記事も、ぜひ。

上達しないアマチュアに共通のマインド

■2023年3月、3年ぶりに開講。MTLヴォイス&ヴォーカルトレーニングの詳細はこちらです。6日間を1日にぎゅっと凝縮、ダイジェスト版、いよいよ1月28日!

 - The プロフェッショナル, 完コピ, 歌を極める

  関連記事

「オリジナリティ」ってなんなのよ?

「○○って落語家はすごいんだぞ。 一流と言われた落語家をぜんぶ研究して、 みんな …

怖いなら、目をつぶって飛び込め。

人生のターニングポイントとも言うべき、 大きな出逢いや変化には、 ドキドキやワク …

「で?私、何したらいいんですか?」

「初回はカウンセリングをします」と言うと、 いわゆる「体験レッスン」をご希望の方 …

「ダメ出し」こそが、プロの技を試される仕事なのだ

他人にダメ出しをする人には、 自分のためにダメ出しをする人と、 相手のためにダメ …

世界観を限定するほど、多くの人に刺さる!

先日『THE GUILTY ギルティ』というデンマーク映画を見ました。 あまり詳 …

「あの人、ノド大丈夫かな?」

仕事柄、お芝居やミュージカルなど、さまざまな舞台にお招きいただきます。 レッスン …

「できる人」が集まる環境に身を置く

音楽のセンスや、ことばのセンスを磨いたり、 きらりと光る知性を身につけたり、 楽 …

無限の可能性の中から選び取る、 たった一つの音。

レコーディングなどで自分の声と向き合うと、 声というものの表現の無限の可能性に、 …

ビジョンとチームワークが作品力になる。

お城や寺院、教会などのような歴史的建築物や、 アイディアとエンタテインメントが詰 …

ライブの選曲、どうします?

3月2日のMaybe’sライブのリハーサルがはじまりました。 基本2 …