大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

時間がかかることを怖れない

   

本気でうまくなりたいなら、「この1曲」と決め、歌いこなせるようになるまで、とにもかくにも徹底的に歌い倒せと、口が酸っぱくなるほど言い続けています。

レッスンをはじめたばかりの人は、私が1コーラス、数小節、いやさ、1音、と、あまりに重箱の隅をつつくようにこだわるので、不安を覚えるようです。

1曲の中には、何百、何千と音がある。1音1音、こんなスピードで練習させられたんじゃ、一体全体どれだけ時間がかかるかわからない。
まして、アーティストともなると、レパートリーは何十曲、何百曲もあるわけで、遠い目になる気持ちはよくわかります。

しかし、この「1音」の精度を上げることなくして、歌の本当の上達はあり得ません。

うまそうに歌うのは簡単なんです。
でも、小手先のテクニックでちょちょいと整えた、「うまそうな歌」では人は、けして感動しません。
そんなんで感動させられるなら、YouTuberはみんな人気歌手になっている。
でも、そうはなりません。人は本質にしか感動しないからです。

1音にこだわる。1フレーズにこだわる。
すると、あるとき、ぱ〜っと正解が見える。
最近よくお話しているところの、「解像度が上がる現象」です。

こうなればしめたもの。
一気に、これから歌う曲、これまで歌って来た曲の課題が見えてきます。

何曲も何曲も、こだわり倒す必要はないんです。
3〜4曲、「これで完璧」と納得できるまで、徹底的に歌い込んで、モノにすれば、
その他の曲の練習の精度とスピードも劇的に上がります。
その3〜4曲が文字通り、あなたのキャリアを支えてくれるようになるのです。

小手先の技術にこだわっていたら、ずっと曲に振り回され続けます。
ボスは歌い手であって、曲ではない。
心のままに、歌をコントロールできてこそ、本物の歌い手です。

 

私は天才ではありません。
ただ、人より長く一つの事柄と付き合っていただけです。
アルベルト・アインシュタイン)


コアでマニアックな話や、「ここだけの話」をお届けするご購読はこちらから。もちろん、無料。バックナンバーも読めます。
ご登録いただいた方には、『朝から気持ちい声を出すためのモーニングルーティン10』をプレゼントしています。

 

 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, 歌を極める

  関連記事

ことばに「自分の匂い」をしみつける

ことばには、話す人の匂いがあります。 同じことを言うのにも、ことばの選び方や言い …

何年「基礎練習」するよりも、1回の「本番」

何年「基礎練習」をするよりも、一回の「本番」がパフォーマーを上達させる。 &nb …

で、「グルーヴ」ってなんなん?

「あいつのプレイ、グルーヴしてないんだよね」 「もっとグルーヴ感じて歌わないと〜 …

知っていること vs. わかること vs. できること

知っていることと、わかっていることの間には、大きな溝があります。   …

「歌の表現力」ってなんだ?

表現力と言うことばを聞いたことがあるでしょうか?   「彼はテクニック …

作業量の多さにひるまない

英語を勉強しはじめたとき。 英語の辞書の重さをずっしり感じながら、 「こんなにた …

英語の歌詞って、どうやって覚えるの?

「歌詞を覚える」というのは、ある種の習慣です。 何を当たり前と思うか、という気構 …

中途半端なメソッドで教えない。学ばない。

メソッドには3種類あります。 ひとつは教え手自身が、複数の学校で、または専門家か …

ちゃんと元取れっ!

けして質素なタイプというわけではありませんが、ことコスパに関しては誰より厳しいと …

「できないことをできるように」から「できることをもっと素晴らしく」

先日、ディスカヴァーさんが、メルマガで拙著の紹介をしてくれていました。 「自分も …