耳で聞くのではない。脳で聞くのだよ、明智くん。
少し前、まずオケを聴け!歌うのはそれからだ!という記事で
歌のピッチやリズムが悪い人は、オケが聞けていないのだというお話をしました。
レッスンでも、オリジナルの音源を流して、
「はい。ハイハット聞いて」
「ベースの音、声でなぞって」
などということをさせることがあります。
しかしです。
実はこの、
「オケの中から、特定の音だけを拾い出して聞く」というのが、意外に難しい。
こどもの頃から楽器をやっていたり、聴音をやっていたり、
はたまた英才音感教育のおかげで、絶対音感を持っていたりという人には、
全くもって理解出来ないことかもしれませんが・・・
聞こえないものは聞こえないのです。
私自身、音楽の英才教育とは無関係の環境で育ったせいか、
音楽家を志してから、もっとも苦しんだのは、「耳が悪い」ことでした。
オケは、「オケ」というダンゴの状態でしか耳に入ってこない。
キーボードやギターのコードの構成音はおろか、
ベースの音でさえよく聞こえない。。。
仕事をはじめるようになってからは、モニターでもずいぶん悩みました。
誰かとユニゾンで歌っていると一切自分の声が聞こえなくなる。
ハモっているはずなのに、自分の声がどちらだかわからなくなる。
その結果、ライブでも、レコーディングでも、音を外しまくっていました。
さて、こういう人をミュージシャンの間では「耳が悪い」というわけですが、
実際に聴力に問題があるわけではもちろんありません。
聴力検査で悪いスコアが出たことは一度もありません。
なのに、一体全体なぜ聞こえないのか。
はい。音は空気の振動です。
空気の振動が鼓膜を振動させ、電気信号に変換し、脳に伝える。
そして、どんな音かを認識するわけです。
鼓膜の機能に、ある程度の個人差はあると仮定しても、
振動が伝わるのは、あくまでも物理的な現象ですから、
誰の耳だって、平等に振動しているはずなのです。
そう考えると、特定の楽器を聞くというのは、「耳の焦点」をあわせること。
耳にはもちろん、目や声帯のような、
ピント調節機能がついているわけではありません。
脳が聴きたい音に焦点をあてて、音を拾っているだけです。
苦手な人は、可能なら、聴きたい音の音量だけをぐいっと上げてみる。
ボーカリストなら、耳栓をしてみるのも有効です。
一度、聞くべき音を捉えられると、何にピントを合わせるべきかがつかめます。
それから、もとの音量に徐々に戻していけば、
だんだんと、お目当ての音がくっきり聞こえてくることに気づくはずです。
いかがでしょう?
苦手な人は、早速練習してみてくださいね。
関連記事
-
-
欲しい情報は、ありとあらゆるところにみつかる
「カラーバス効果」ということばをご存じでしょうか? 心理学用語で、 …
-
-
「まったくおなじ音」は2度と出せない?~SInger’s Tips #19~
長年歌をやっていて、 もっとも難しいと感じることにひとつに、 「おなじ音をおなじ …
-
-
「無駄な努力」は、 果たして本当に「無駄」なのか?
「あ。これやってみたい!」 ちょっとした閃きに、心をつかまれて、 どうにもこうに …
-
-
「限界ギリギリの定番曲」をいきなり歌う。
練習はルーティンからはじめる、というのは、 どんなスポーツでもおなじではないでし …
-
-
記憶に残る「デキるやつら」は一体何が違ったのか?
かつて、教えていた音楽学校では、ヴォーカルの授業を 定期的にインスト科の生徒たち …
-
-
ことばに「自分の匂い」をしみつける
ことばには、話す人の匂いがあります。 同じことを言うのにも、ことばの選び方や言い …
-
-
歌の「点」、ビートを意識する。
ドラムにビートがあるように、歌にもビートがあります。 ビートの意味は、いろいろな …
-
-
熱意とか、負けん気とか、激しさとか、悔しさとか。
MTL Live2017、大盛況の元に終了いたしました。 ご参加いただいたみなさ …
-
-
「長期記憶のゴールデンタイム」にあなたは何を記憶しますか?
「受験生といえば、まずは『でる単』」。 『でる単』、すなわち、『試験に出る英単語 …
-
-
「誰に学ぶか?」vs.「誰が学ぶか?」
中学1年でやっとの思いでピアノを買ってもらって、通い始めた近所のピアノ教室。 2 …
- PREV
- 「本番の女神」はベストを尽くした者だけに微笑む
- NEXT
- 人は、エネルギーに魅了されるのだ!