大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

鼻呼吸か?口呼吸か?

   

ボイストレーナーをはじめて間もない頃、
生徒のひとりに、
「私、歌う時に、うまく鼻で息が吸えないんですけど」と言われた時は、
正直、この子は何を言っているんだ?とビックリしたものです。

何年もプロで歌ってきたのに、歌う時に鼻で呼吸しなくちゃなんて、
一度たりとも意識したことがなかったのです。

ヘ?も、もしかして、それが「正しい発声」なの?
私はそんなことも知らずに歌ってきたの・・・?

今日のレッスンでも同じような質問を受けました。
あぁ、またか、です。

確かに、「腹式呼吸は鼻で息を吸うべし」という説があるのは事実です。
実際、そのように指導されている先生も多いようです。

理由は・・
〇鼻で息を吸えば、鼻腔を通過する間に息が湿り気を帯びるので、
呼吸器を痛めない。
〇単純に、鼻で吸う方が胸呼吸になりにくく、お腹に空気を入れやすい。

なるほど。実に理にかなった呼吸ということになります。

でも、私の頭に浮かんだ大きな疑問は
「で?それは自然か?」でした。

「話すように歌う」が私のボーカル指導のテーマです。
人間の声は話している時が一番表現力がある。
だから、あくまでも自分がいつも自然に話しているときの状態で
呼吸をするのが一番いいはずなのです。

人間は自然に話してるとき、呼吸を意識することなんてありません。
あくまでも自然に、自動的に、カラダの中を空気が出たり入ったりする。
そんな状態が歌う時も理想的なのです。
ただ、そのクオリティーを上げていくために、
トレーニングが必要なだけなのです。

腹式呼吸のトレーニングは呼吸のクオリティーを上げるのに役立ちます。
腹式がカラダにしみこめば、自然に深い呼吸をすることが可能になります。

ところで、鼻で息を吸うとき、人はどうしますか?
そう。口を閉じるのです。
会話の途中で、何度も息継ぎのために口を閉じる。
それって、自然ですか?

もちろん、
どちらが正しいとか、間違っているとかジャッジするつもりはありません。
会話のときも、歌う時も、
鼻で呼吸をする方が自然という人も、少数ですが存在します。

私が言いたいのは、
どっちでも、自分にとって自然で心地いい方でいいんじゃない?ということ。

少なくとも私にとって、息を吸うたびに口を閉じるという行為は
とても不自然である。
おまけに、カッコ悪い。
そして、そんな風に歌うシンガーをほとんど知らない。

(ちなみに、ホイットニー・ヒューストンも、秋川雅史も、B’Zの稲葉浩志も、
みんな口を開いたまま息を吸っています。)

どちらが正しいんじゃない。
自分が正しいと感じる方が正しい。
そんな結論に至っています。

とはいえ、
鼻呼吸が自然と感じている方は、けして直そうとしないでくださいね。

なんでもありです。
そういうことです。

 - 今日のレッスンから, 声のはなし

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