大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

声の温度。歌の肌触り。音の匂い。

   

ボタンひとつで音色を自在に変えられる、
いわゆるデジタル・シンセサイザーが登場したとき、
ミュージシャンの反応は真っ二つに分かれました。

「すごいもん出てきたね。音楽が変わるよ」派と、

「所詮電気的につくれる音なんて、知れてるよ」派。

あれから40年くらい経ったでしょうか。

音楽の世界におけるデジタルの発展はとどまるところを知りません。

楽器ができない人でも、
立派なオケがつくれるようになり、
ドラムもベースも管楽器も、
ぜんぶキーボードで済んじゃう、
という恐ろしいことが起きました。

「歌だけは機械に取って代わられることはないから。」
などと、高をくくっていたら、

いやいや、とんでもない。

なんでも思い通りに、
思い通りの声で歌ってくれる機械までできて、

気がついたら、
「三次元の人間の歌っている歌は無理なんで」
なんて、新人類さえ現れました。

mp3、Youtube、ニコ動・・・
このまま、リアルな音楽は廃れてしまうのか・・・

 

しかし。

コロナ自粛で、人との付き合いを遮断したことで、
多くの人が、人間のカラダから発される
「生の波動」の大切さを再確認しました。

0と1では絶対の絶対に表現できない、
「生」の体験。

人間の歌う歌には、ある種の「肌触り」があるということ。
人の声には、それぞれの「温度」があるのだということ。
そして、音には独特の「匂い」が染みついているのだということ。

「生」が持つエネルギーこそが、
私たちに「音楽」という特別な体験をくれる。

抑圧されるほどに欲求が高まるのが人間というものです。

「生」を吸収するフィルターを研ぎ澄まして、
音を感じる毛穴という毛穴をばっちり広げて、

今しばし。

「抑圧」を力に変えるのです。

 

◆【ヴォイトレマガジン『声出していこうっ!me.』】
ほぼ週1回、ブログ記事から、1歩進んだディープな話題をお届けしているメルマガです。無料登録はこちらから。バックナンバーも読めます。

 - B面Blog, Life, 声のはなし, 音楽

  関連記事

「オケ」じゃなくて、プレイヤーの顔のついた「音」を聞くんですよ。音楽って。

年寄り自慢をするつもりは毛頭ありませんが、 (あたりまえ) 一昔前は歌を歌いたか …

「無駄な努力」は、 果たして本当に「無駄」なのか?

「あ。これやってみたい!」 ちょっとした閃きに、心をつかまれて、 どうにもこうに …

自分が自分であることの奇跡

今日はお誕生日でした。   いくつになっても、誕生日はとてもワクワクし …

カラダを粗末に扱わない。

カラダは神様がくれる、生涯たったひとつの大切な宝物。 大切につかえば、ちゃんとこ …

人生のベストタイミングは「やりたい」「やらなくちゃ」と、ひらめいた時

“Never too late”は私の信条のひとつでもあ …

ノドをウィルスから守るためできる10のこと

東京の冬場の平均湿度は40~50% 。 そこまで低い数字と感じないかもしれません …

「自分の声の地図」を描く

「あなたの音域はどこから、どこまで?」 「え?」 「高い方はどこまで出るの?下は …

行き詰まりを感じたら、まず「行動」。

火曜日からワーケーションで伊豆に来ています。 環境が変わったせいか、 過去を振り …

音楽を「職業」にしないという選択

若い頃から音楽を志して、寝る間も惜しんで練習や創作、 ライブ活動に打ち込んで来た …

よき時代のよきものを、 いい形で後世に伝える方法

高校時代、何が嫌いって「古文」の授業くらい 嫌いな授業はありませんでした。 使わ …