ノドを痛めるのは「大きな声を出すから」ではなく「出し方が悪いから」
「大きな声=ノドを痛める」と思っている人が、
あまりに多いことに、いつも驚かされます。
何年か前、
定期的にレッスンをしていた、
実にデリケートな声の女性シンガーがいました。
はじめて私がお手本で声を出したときのことです。
彼女はショックを受けたように、
え〜〜!?とため息をついて、
「先生、そんな大きな声、いきなり出して、おノド大丈夫ですか?」
などと言うので、
こちらが反対にショックを受けてしまいました。
ちなみに私が歌った声は、
通常私が歌う音量の15%程度だったと記憶しています。
また、べつの女性シンガーがカウンセリングに来た時のこと。
インタビューをしていた時は、
ごく普通のティーンエイジャーの声でしたが、
歌い出したとたん、
蚊の鳴くような声量になって、
思わず耳をそばだててしまいました。
歌のテクニックは十分なレベルなのに、
なぜこんなに声が小さいのだろうと不思議に思い、
「ずいぶん小声で歌うのね」と言うと、
「え?」と驚いた彼女は、こう言いました。
「だって、先生、大きな声なんか出したら、
ノドを痛めてしまいますもの」。
いやいやいやいや。
断言します。
ノドを痛めるのは、
「大きな声を出すから」ではなく、
「出し方が悪いから」です。
人間のカラダは動物たちと同様に、
なかまに危険を知らせたり、
「愛してるよ〜」と伝えたりするために、
大きな声が出るようにできています。
自然に、あるがままにノドを使えば、
ちゃんと、十分な大きさの声が出るのに、
緊張したり、
自信が持てなかったり、
力まかせにふんばったりするから、
声は大きくなるどころか、
ひっくり返り、
ガラガラになり、
キンキンし、もしくは、こもり、
カツゼツが悪くなり、
どんどん聞き取りにくくなって、
やがて声が枯れてしまう。
最悪の時には、
そのまま声帯様=ノドを痛めてしまうわけです。
声量を大きくしたかったら、
やるべきことは3つです。
1. 呼吸を強く吐く癖をあらためて、
いい感じの一定の呼吸をキープする。
2. 自分にとっての適正音量で、
まずは、心地よい音色の、
響く声を出せるように練習する。
3. 心地のよい声が乱れないように、
自分にとってのフォルテシモを
毎日少しずつ、更新していく。
これしかありません。
コツと、筋トレです。
しかも鍛えるのは、
声帯様そのもののめちゃくちゃデリケートな筋肉であって、
腹筋でも、肺でもありません。
雑に鍛えちゃだめなんです。
声帯様との関係性を深めながら、
ちょっとずつ、ちょっとずつ鍛えるのです。
まずは、自分のカラダを信じる。
発声は、そこからですよ。
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