大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ギターソロが邪魔くさいぃ〜!?

   

「最近の子はギターソロになると、曲を飛ばすんですよ」

え?なんですか、それ?

とある事務所の方とお話していたら、そんなことを言い出すので、
ひっくり返りそうになりました。

「長いソロとか、イントロとかががまんできなくて、
次の歌い出しまで曲を飛ばして聞いたり、
なんなら、次の曲に飛ばして聞くんです。」

ひぇ。
このソロがたまんないとか、
このギターがぐっとくるとか、ないんですか?

「基本歌いたい。曲を覚えたい。
邪魔くさいんですね。ソロ。」

どっひゃあああ。

じゃ、天国への階段、聞けないじゃん。
Crazy Diamondとか、え?イントロ聞かないの?

まぁ、過渡期なんでしょう。
もちろん、演奏も含めて、
聞いている人だってたくさんいるでしょうし…。

とはいえ、確かにサビ始まりの曲や、
歌で最初から最後まで埋め尽くされているような曲が多い。

これってさぁ。
どっかに行きたいなって思ったら、
どこでもドア以外の選択肢はない、みたいなことでしょ?

いきなりメインディッシュ、
次もメインディッシュ、締めもメインディッシュ…。

 

確かに、求める情報、確信に、ドカンと着地して、
必要な情報だけ拾ったら、またドカンと飛び立つというのは、
効率がよろしい。
時間の節約になるし、集中もできる。

 

しかしね。

人生って、音楽って、回り道や脱線の道の途中に、
思いがけない出会いや発見がある。

求めていた「情報」と
予測もしなかった「無駄な情報」が渾然一体となって、
味わいや色彩や深みを持った、本物の経験として、
自分自身の中にしっかりと刻まれる。

振り返るほどに、
大切なできごとは、みな、
思いもかけないタイミングに、
予想だにしない形で、やってきました。

ドアをあけたら、
エンパイアステートの屋上だったり、
モンブランの山頂だったりしたら、
旅のワクワクや出逢いの意味は、きっと全然違ったものになるでしょう。

本屋の店先でガイドブックを見ながら、
まだ見ぬ彼の地を夢見るように、

航空券を手に入れたくて、
汗水垂らしてバイトに励むように、

重いスーツケースをかかえたまま、
空港からシティへの行き方どころか、
チケットの買い方すらわからなくて、
駅の構内を右往左往するように。

時にはスピーカーと向き合って、
いや、イアフォンだっていいのだけれど、
誰かが何ヶ月、何年とかかって制作したアルバムというものの、
最初から最後までを、
早送りせずに、曲を飛ばしたりせずに、
じっと、聞いてみたい。

プロセスは時に、結果よりも重要。

回り道や脱線を楽しむ心の余裕が音楽そのものだったりします。

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