素直じゃない人
「ハイという素直な心」。
女子校時代、朝礼の訓示で、
時の校長先生が必ず唱えた『日常の五心』の冒頭のことばです。
音楽、しかもロックに一辺倒で、
「学校の先生」というものを敵視していた当時の私にとって、
朝礼ほど無意味で、閉塞感を覚えるものはありませんでしたから、
毎回決まり切ったことばの羅列に終始する校長先生の訓示に、
死にたくなるくらい苦痛に感じたものです。
しかしね。
刷り込みの怖さか、はたまた、やはり名言は名言なのか。
この、「ハイという素直な心」は、
何十年も経った今も、ことあるごとに脳裏に蘇ります。
さらに、年を重ねるごとに、
なぜ、校長先生が、毎回、毎回、朝礼のたびに、
この「退屈な」訓示を繰り返したのかが、理解できるようになりました。
「人柄なんですよ。どんなに偉くなってもね。
いくつになってもね。
やっぱり人柄ですよ、みなさん。」
数年前、某セミナーで、講師の先生のアドバイスを聞き流し、
いきなり自分の話をはじめた受講生を
その先生が一喝するという場面に居合わせたことがあります。
「だから、素直じゃない人はダメなんだ。
素直じゃない人は成長できないんです!
あなたは人の話を聞く態度ができていない。
あなたの言いたいことなんか、誰も興味ないんです。」
確かになぁ。。。。と思うと同時に、
高校時代の朝礼の訓示を思い出し、
一回くらいちゃんと聞いておけばよかったと、
反省したものです。
さて。
「心が素直じゃない人」というのは、
どんな世界にも、一定の割合でいるものです。
仕事先などで出会った場合は、
なるべく関わらなければいいのですが、
生徒やクライアントとなるとそうはいきません。
こちらは、教育をするのが仕事。
レッスン中は、徹底的に本人のようすを観察し、
さまざまな形で本人の思いや考えをヒアリングし、
最適なアドバイスをしようと、
全身全霊で向かいあうわけですが、
興味なさそうに人の話を受け流す。
質問をしても、ハッキリした答えが出てこない。
何かアドバイスをしても、
「あ、でも僕は、そういうの苦手なんで」
「いや。そのくらいはわかっているんですけど。」
「昔の先生にもおなじこと言われましたよ」
などという返答が帰ってくる。
やがて、こちらも、
熱意のやり場がなくなって、
じょじょにパワーダウンしてしまいます。
自分に嫌悪感を覚えながらも、
とりあえず、型どおりのレッスンで、
時間をやり過ごすようなことも、時にあります。
事務所なり、親なり、本人なりが、
お金を払ってレッスンを受けているのに、
教える側のやる気を喪失させてしまうなんて・・・
もったいなくないですか?
素直な生徒、積極的にこちらと関わろうとする生徒たちは、
アドバイスをどんどん吸収し、
言われたことを確実に試し、どんどん伸びていきます。
こうなると、教える方も真剣勝負。
常に最大限のパワーと知識で向き合います。
時に、気づかなかった力を引き出されていることさえあります。
おなじ時間をレッスンで過ごすのに、
なんという「学び」の差でしょう。
1時間1時間はたいした差ではないかもしれない。
でも、この微差が、積もり積もれば、
その差は膨大なものになります。
素直になれないというだけで、
人生でどれだけ、学びの機会を失うことか。
もったいないことです。
本当にもったいない。
ちなみに、これは、いわゆる、
ティーンエイジャー特有の反抗的な態度というのとは、少し違います。
反抗的なティーンエイジャーというのは、内心結構素直なものですから、
こちらがあきらめずに向き合っていると、やがて、少しずつ心を開いてくれるものなのです。
なにかのきっかけに、
突然素直な気持ちに目覚める人もいます。
何年も経って、久しぶりに会ったら、
驚くほど素直になっていたという人もいます。
こればかりは、自分の問題。
ものの見方、価値観の問題。
人との関わり合い方の問題です。
むつかしいのは、
素直じゃない人は、自分でそれに気づいていないということ。
人に言われても、素直じゃないから、
自分が素直じゃないことを理解できない。
気づけなければ、変えようもありません。
まずは、自分の日常のリアクション、
他人のことばに対する反応を客観的に観察すること。
ネガティブなことばを言っていないか、
「でも」や「だって」が多くないか、
相手の言うことに「わかってます」という反応をしていないか・・・
まぁ、私のブログなんか読んで、
そんなチェックをするくらい素直な人なら、
なんの問題もないわけですけどね。
たぶん。

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