大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

リズムが悪いんじゃない。カツゼツが悪いんだ。

   

昨夜、ヒップホップグループN.W.Aの伝記的映画、
“Straight Outta Compton”を見ました。

何かと議論の対象となる歌詞の内容はともかくとして、
アフロアメリカン特有のリズム感、グルーブ感の心地よさ。

なにより、叩きつけられるに発せられることばのひとつひとつが、
実にパワフルで小気味よいビートを刻みます。

 

さて。

日本人ヴォーカリストの最も苦手なことのひとつに、
この「ビートを刻む」があります。

 

「リズム悪いね」と言われて、一所懸命練習をする。
メトロノームやリズムマシンにあわせて歌う。
ドラムやベースの音を必死にとらえようとする。

それでも、なんだかシャキッとしない。
どうもビートが小気味よく刻めない・・・・

リズムやビートが命のロックやヒップホップ系シンガーには、
深刻な悩みです。

 

日本人がビートをとらえることが苦手な原因は、
実は、日本語の音の成り立ちにあります。

 

日本語の音声は、
子音と母音がワンセットになって発せられることがほとんど。
そして、アクセントはたいがい、母音の方につきます。

 

「ワーン、ツー、スリー、フォー」と、
メトロノームにあわせてカウントの練習をしても、

メトロノームの刻む「点」の部分の「ワ」ではなく、
「ぁ〜ん」
「ツ」ではなく、
「ぅう〜ん」
の方に、アクセントが来てしまう。

 

「ビート」というのは叩くという意味ですから、
本来、ドラムなどの打点に当たるポイントをとらえるべき。

ところが、この「点」が、「線」や「面」になってしまうわけです。

これではビートは抜けてきません。

 

一方で、英語圏の人がカウントを出すときは、
声の出る瞬間にアクセントをつけます。

“One”なら最初の【W】、”Two”なら【T】。

だから、点を確実にとらえられるわけです。

 

また、日本人は母音にアクセントをつけることも苦手です。

英語圏の人たちが”I”と頻繁に発音するように
母音にアタックをつけて発音することが少ないからです。

リズムがいいと言われるシンガーは、
みな、ことばの立ち上がり、
つまり、音の出だしをきちんと「点」で表現できているのです。

 

リズムは、まず「点」。

がんばって練習しているのに、リズムがよくならない。
評価が上がらないという人は、
もう一度、「点」を見直して、
くっきり発音できるように練習してみましょう。

すべての音を「ぱきん」と「点」で表現できるようになったら、
その「点」を楽器の「点」と一致させられるトレーニングをする。

これだけで、リズムはぐんとよく聞こえるものですよ。

◆コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』。限定公開のレッスン映像もごらんいただけます。購読はこちらから。

◆自宅で繰り返し、何度でも。ヴォイス&ヴォーカルのすべてが学べる【MTL Online Lesson12】。
次期受付開始は今しばらくお待ちください。

◆10月29日(日) 鹿児島にて【MTLワークショップ in 鹿児島】を開催します。

 

 - The プロフェッショナル, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法

  関連記事

「圧倒的な安心感」をくれるプレイヤーの条件

魅力的なプレイヤーたちとのパフォーマンスはドキドキ感の連続です。 心地よい音色と …

“トレーナー”というものの役割を思う。

音楽の世界ってゴールはないんだよな。 ワクチンの軽い副反応で、 なかばサボりなが …

音なき音楽をキャッチする

歌や音楽を学びたい、極めたいと思うとき、 ついつい、音楽のことばかりを考え、 ま …

「曖昧なこと」「わからないこと」を放置しない

歌や楽器の上達のために必要不可欠なことは、 「曖昧なこと、わからないことを排除し …

歌を学ぶ人の3つのステージ

私は歌を学ぶ人には、 3つのステージがあると考えています。 ひとつめは楽器として …

1音にこだわる!~Singer’s Tips #6~

歌のトレーニングの基本中の基本であり、 上達のために最も重要なことのひとつは、 …

自分の「サイズ」に合った声を出す

管楽器ほど、 一目見ただけで音色の想像がつく楽器もないでしょう。 大きさ通り、見 …

ペダル、踏んじゃだめよ。

小学校4年の時に、友だちの弾くピアノの調べに胸を射貫かれ、親に頼み倒すこと3年あ …

「まったくおなじ音」は2度と出せない?~SInger’s Tips #19~

長年歌をやっていて、 もっとも難しいと感じることにひとつに、 「おなじ音をおなじ …

視点を変えれば、感動は無数に生まれる。

1990年代に一世風靡したロックバンド、 オアシスのノエル・ギャラガーが、 どん …