『この人、うまいの?』
『この人、うまいの?』
最近は滅多にありませんが、
母と一緒にライブやテレビなどで歌手の歌を聞いていると、
たびたび発せられた、謎の質問のひとつです。
こうした疑問を口にするのは、
もちろん、母だけはありません。
一般の方でも、
プロを目差すアマチュア・ヴォーカリストでも、
「MISUMIさんは○○さんの歌ってどう思いますか?」
「MISUMIさんがうまいと思う歌手って誰ですかね?」
などなどと異口同音に聞いてきます。
実は、そんな質問をされるたびに、
まず、まいったなぁと感じてしまいます。
他人の歌を聴くときに、
「うまい」という基準で評価することはないからです。
だって、そうじゃないですか?
歌って、「うまい」からって好きになるわけじゃない。
ビートルズだって、
ロバート・プラントだって、
ボブ・ディランだって、
ティナ・ターナーだって、
私をドキドキさせてくれたヴォーカリストたちは、
歌のうまさで私をドキドキさせたわけじゃありません。
(間違っても、そんなはずはありません)
私の仕事は、「歌で人を感動させたい」という人が、
ストレスなく、思い通りに歌えるように、
歌で自分の気持ちを過不足なく表現できるように、
そして、聞く人を感動させられるように、お手伝いすること。
けして、歌の「うまさ」をジャッジすることではありません。
トレーナーとして人の歌を聴くときは、
もちろん、その人や、聞く人のストレスの源となるであろう、
ピッチやリズムやカツゼツや・・・
その他諸々、テクニカルな面にフォーカスして聞きます。
そうなると、根がオタクですから、
その人の中でなにが起きているのか、
なにがうまくいっていて、なにがうまくいっていないのか、
細部の細部まで、ハッキリわかりますし、
それを頭の中で言語化し、説明することもできます。
しかし、実際に歌から受け取る感動は、
テクニカルな面を越えたところにあるものです。
よく聞けばへたなんだけど、
なんか、いいんだよなぁ、という歌はたくさんありますし、
うまいんだろうけど、
恐ろしく退屈な、どうでもいい歌というのも山ほどあります。
私自身、トレーナースイッチをOFFっているときは、
一音楽家として、
音楽を音楽として感じられるよう、
人の心を受け取れるよう、
心をオープンにして音楽と向き合っています。
だから、「この人うまいの?」という、
いきなりトレーナースイッチを入れられるような
質問にまいってしまうわけです。
もちろん、
トレーナースイッチが入っている、いないにかかわらず、
「うまっ!!!」と感動してしまう、
とんでもないレベルの歌手というのは存在します。
「うまさ」がアイデンティティになるというのは、
かなりなレベルです。
一方で、
「うっわぁ〜〜。へっただなぁ〜〜。。。。」と
思わずチャンネルを変えたくなるような、
ある種、公害レベルの歌手も多々存在します。
しかし、それ以外、
つまり、無意識レベルで感動するほどの
「馬鹿うま」でも、「激へた」でもない歌を聞いて、
感じることは、ただ、「好き」か「キライ」か。
それだけです。
特定の歌手の「うまさ」が気になるのは、
自分自身の価値観に自信が持てないから。
だれか、歌のわかりそうな人の意見を聞いて、
自分の価値基準を確かめたいから。
そして、安心したいから。
歌をどう思うかは、人との出会いと似ています。
A君も、Bさんも、ぼろくそ言っていたのに、
実際にCさんに逢ってみたら、ものすごく魅力的な人で、
確かに、いろいろ性格的に問題もあるみたいだし、
仕事もイマイチできなそうなんだけど、
「やっぱり好き〜〜っ!」・・・みたいな・・。
最後にジャッジするのは自分の感性です。
自分の価値基準をつくる。
感性を研ぎ澄ます。
誰になにを言われても揺るぎない「好き」を持つ。
本当の音楽は、そこからはじまります。
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