大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

マスクは「声」をダメにする!?

   

先日、新宿駅を歩いていたときのこと。

背後でおしゃべりしている若い女性たちの声を聞いて、
「あぁ、2人ともマスクしてるのね」と、
なんだかピンときて振り返ってみたら、
案の定、2人ともピッタリと、
正しくマスクをつけていました。

インフルも怖い。
コロナはなんだかもっと怖い。
なにより、花粉が冗談じゃない。。。

こんなご時世ですから、
日ごろアンチマスク派の私にも、
みんながマスクを手放せない気持ちはよ〜くわかります。

ばい菌や花粉から身を守ってくれるマスク。
ノドを乾燥から守ってくれるマスク。
自分が体調不良の時には、
他の人に迷惑をかけないためのマスク。
今や売り切れ店続出で、値段も高騰している超人気のマスク。

しかし、このマスク、
「声」にとってはいいことばかりではありません。

今日は、毎日マスクと付き合う今だからこそ、
知っておきたい「マスクと声」のお話をいたします。

 

●マスクは人を「鼻にかかった声」にする。

マスクをかけると、
人の耳に一番届きやすいと言われている、
2〜4kHz周辺の周波数が弱まります。

これが、マスクをすると声がこもる理由。

聞き取りやすい周波数が弱まるから、
言っていることを聞き取ってもらえない、
聞き返される、ということが増えてきます。

そこで人は何をするか。
鼻に声を響かせるんです。
つまり鼻にかかった声を出す。

若き女子たちのみ〜み〜聞こえるような声、
というとわかりやすいでしょうか?

鼻にかかった声はマスク声と反対に、
2〜4kHzがめちゃくちゃ強調されます。

声を鼻にかけることで、
マスクでカットされた周波数を補って、
音のバランスを取るわけです。

声を鼻にかけるのは、いわば知恵ですから、
マスクをしている時に意図的に使うだけならOKなのですが、
多くの人は、これを無意識にやります。

無意識に、習慣的に、こうした声を出していると、
それが「自分の発声」「自分の声」として、
脳に、カラダに、染みついてしまう。

これが、マスクを常用している人に、
鼻にかかったような発声の癖を持つ人が多い理由と考えています。

●マスクは人を無表情にする。

マスクをしながら話すとき、
表情筋を大きく動かしたり、
口を大きく開閉したりして話すと、
マスクがずれまくって、
鬱陶しくて仕方ない、という経験はあるでしょうか?

実は、私がマスクを好まない大きな理由のひとつに、
私の表情筋の動きの激しさがあります。
マスクをしたままおしゃべりをすると、
しょっちゅうマスクの位置を直さなくてはならないのです。

ところが、マスクを常用している人たちは、
そんなことまったく気にならないようす。

そこで、彼らを観察してみると、
マスクを取っても表情筋が動かない、
ということが多々あります。

マスクをつかっても不自由を感じないように、
表情筋の使い方を最適化したのか?
それとも、そもそも表情筋が発達していないから、
マスクをつかってもずれないのか?

こうなるとニワトリとタマゴですが、
いやいや、これはゆゆしき問題です。

欧米でマスクが流行らないのは、
もしかして、
欧米人の表情が日本人よりも圧倒的に豊かだから、
というのもあるのじゃないのか?

使わない筋肉は退化します。
マスクをかけている時間が長くなるほどに、
顔の筋肉はつかわれなくなり、どんどんやせ細る。
筋肉の上に老廃物や脂肪がたまって、顔まわりが重くなる。
すると筋肉はさらに動かなくなる。

負のスパイラルです。

さらに、
「マスクで顔が見えないんだから、愛想笑いは無駄」
というのでもないんでしょうが、
みんな顔の下半分の筋肉が、
どんどん落ち、口角が上がらない、
無表情な顔になっています。

声の表情は顔の表情。
お医者さんに、声の表現が苦手な人が多いのは、
一日中マスクを着用しているせいもあるのではないか?
うちにいらっしゃるお医者さんや医療関係者のみなさんには、
ずいぶん前から、そのようにお話しています。

まぁ、お医者さんにあんまり表現力豊かに話されても、
患者さんは困るでしょうから、
淡々とした、クールな表現は、
お医者さんという職業の人たちの
「サウンド」とも言えるかもしれません。

 

慣れとは恐ろしいもので、
無表情で話していると、
無表情な自分の声に慣れる。
自分が無表情でいることにすら、気づかなくなります。

ただでさえ、SNSの発達で
声のコミュニケーションの機会が減っている昨今。
声の表現力は、表情筋と共に、
どんどん退化していると言えるでしょう。

●マスクは人を口呼吸にする。

我が家にやってくる、
マスク派のみなさんにインタビューをしたところ、
マスクをしている時、
無意識に口を開けっ放しにしている、
という人が実にたくさんいました。

マスクをしていると息苦しい。
そもそも、口元を人に見られていないんだから、
口を閉じる必要もない。
なんといっても、マスクをしているから、
口の中が外気から守られていると感じる…etc.etc.

いやいやいやいや。
実は、この習慣のせいで、
マスクをしているときの方が、
ノドが乾きやすいという人も多く見られます。

ちょっと考えてみてください。
周囲のばい菌から身を守るためにマスクをつけているのに、
口を開けっ放しって、なんだか本末転倒じゃないですか?

マスクのwith、withoutに関わらず、
口元はしっかり閉じて、鼻呼吸を心がける。
鉄則です。

 

いかがですか?

当分、マスクとの付き合いは続きそうです。

マスクをかけても口をしっかり閉じ、鼻呼吸を心がける。
時々、マスクをはずして、しっかり顔の筋肉を動かす。
マスクを使わなくていい場所では、
声をしっかり響かせ、表情豊かに話す。

自分は大丈夫と思っている人ほど、危ないもの。
今日からぜひ、心がけてくださいね。

◆ワンランク上を目指すシンガーのためのスーパー・ワークショップ“MTLネクスト”
◆6日間で基礎を終わらせる。【MTL ヴォイス&ヴォーカル レッスン12】第9期のお申込み受付中。

 - B面Blog, カラダとノドのお話, 声のはなし

  関連記事

情報の価値を最大化するための5つのヒント

おなじ曲を聴いているはずなのに、 聞き手によって、耳に入ってくる情報はまるで違い …

げに不安定な音を奏でる、完全なる楽器?

歌に真剣に取り組むほどに、 人間のカラダという楽器の奏でる音の不安定さに、 気が …

ヴォーカリストは「声」が命

歌に関することを、ずいぶんいろいろと書いてきました。   姿勢、呼吸な …

世界観を限定するほど、多くの人に刺さる!

先日『THE GUILTY ギルティ』というデンマーク映画を見ました。 あまり詳 …

歌っちゃいけない時。

私のレッスンでは、声出しの真っ最中に、「今日は、もうやめようか」と、レッスンをい …

「知ってる」だけで「わかった気」にならない。

「知識欲」こそが「学び」の基本。 「知りたい!」という気持ちが湧かなければ、 あ …

国語力、お願いします!

歌を教える仕事をしていて、 最もフラストレーションを感じるのは、 生徒がなかなか …

好きであることは自分への責任であり、義務である。

「好きなことをみつけて、それを一所懸命やれよ。 好きなことのない人生はつまんねー …

おかえりっ!「いいね」!

今年のはじめ、専門家の方に勧められるままに、 ブログのSSL化を依頼し、作業が完 …

「ビートを立てる」って難しい。〜Singer’s Tips #11〜

「もっとビート立てて、リズムよく歌って。」 などというディレクションを受けること …