大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「それは、MISUMIさんが無理だって思っているからです」

   

後に圧倒的な成功を手にすることになる、
ある若き女性と、
食事をしていた時のことです。

めちゃくちゃインドアな雰囲気なのに、
不思議なほど生活感がない彼女。
物静かな彼女との会話に詰まって、
こんなことを聴きました。

「Lちゃんって、普段何しているか想像できないな。
お仕事じゃないときって、どんなことしてるの?」

Lちゃんは心外だとでもいうように、言いました。

「えー。そうですか?普通に旅行とか、好きですよ。
この間もスイスにひとりで行ってきました」

私もたいがいひとりで海外旅行をしてきましたが、
基本は都市部を歩く旅ばかり。

彼女の口から、
アウトドアなイメージの「スイス」という国の名前が出たことが、
なんだかとても意外でした。

まぁ、スイス=アウトドアと感じちゃったのは、
私の偏見かもしれませんが・・・

 

「えー?スイス?スイスでなにするの?」

「普通にアルプスとか登りました」

「うっそぉ〜。Lちゃんがリュックとか背負って登山しているなんて、
まったく想像できないわ」

「そんな格好しません。私、パンプスで登ったんです」

は?
この子、何言ってるの〜?

頭の中に、
がっつり登山服に身を包んだ大柄のヨーロッパ人たちが、
パンプスにワンピースでアルプスを登る、
小さなアジア人の女の子とすれ違って、
怪訝そうな顔で二度見する図が浮かんで、
思わず笑ってしまいました。

「ははは。うっそぉ〜。
パンプスなんかでアルプスは無理でしょ〜?」

そう言った私を、真顔で見つめた彼女は、
ふと目を落とすと、こう言ったのです。

「それは、MISUMIさんが無理だって思っているからです」

 

 

あれから10年。

彼女がどんどん成功して、
スターへの道を駆け上って行くのを目の当たりにするたびに、
彼女のことばが蘇りました。

 

「それは、MISUMIさんが無理だって思っているからです」

 

そして、ワンピースにパンプスの彼女が、
アルプスの山道を、妖精のように、
ひらりひらりと軽やかに登っていく姿が目に浮かぶのです。

あれは、本当だったのかもしれないな・・・。

 

もしも私たちが、
心から信じることなら、
何でもできる、すべて叶う、
世界に住んでいるとしたら・・・。

でもきっと、
「信じよう」と思う時点で、
自分はそれを信じていないわけで。

きっと、自分にとって、
バカみたいにあたり前で、
当然起きるとわかっていることが、
自分が「心から信じていること」。

絶対できる!
やってやる!
とばかりにがんばっても、
やっぱり、がんばる時点で信じてないわけで・・・。

 

だから私は、
アルプスに登るなら、やっぱり、
これでもかというくらい重装備で旅に出る。

 

でもね。
きっと私にだって、あなたにだって、
他の人にとってアルプスみたいに遠いのに、

バカみたいにあたり前に、
当然のように、
軽やかに登れる場所があるはずだから。

ずっと抱えてきた大きなリュックを、
よいしょと下ろして、
お気に入りのワンピースとパンプスで、
あたりを見回してみましょうか。

新しい時間の幕開けです。

◆気づけなかった自分の歌と出会う目からウロコの6日間ワークショップ!【MTL ヴォイス&ヴォーカル レッスン12】第9期のお申込み受付中。
◆ワンランク上を目指すシンガーのためのスーパー・ワークショップ“MTLネクスト”

 - B面Blog, Life, 夢を叶える

  関連記事

なかなか芽が出ないのは、ずどんといきなり成長するための準備。

毎日がんばっているのに、なかなか結果が出せない。 現在進んでいる道が正しいのか、 …

「そんなんで、どうやって食べていくんだ?」

昨日、街で前を歩くオシャレでダンディな年配の男性と、 若い女性の会話が、聞くとは …

ゴールを鮮明に描く。

「がんばっているのに、どうも成果があがらない」、 「なんかうまくいかない」という …

「対バン」の流儀

「対バン」。 学生時代からあまりに当たり前につかっていることばなので、 この言葉 …

「モラハラ」に負けない思考法

「ブスが話しかけるんじゃね〜よ!」 さまざまなハラスメントの標的になっていた、か …

「○○っぽくないね。」と言われたときこそ、チャンス。

ハードなロックシンガーを目指しているのに、 「癒やし系だね」などと言われたら、 …

『The ワークショップ Show』という挑戦

ヴォイス&ヴォーカルトレーナーとして、著者としての記事はB面、 ヴォーカリスト、 …

Keep on Dreaming!〜夢を叶える決意

エアロスミスのヴォーカリスト、 スティーヴンタイラーがステージでこう叫びました。 …

オーディションに失敗したくらいで、いちいち落ち込んでる暇なんかないのだ。

長年業界におりますが、 いわゆる「オーディション」を受けたのは2回だけ。 2度と …

自分が生きてきた時間を過小評価しない。

誰にでも、自分が取るに足らないと感じるときはあるものです。 傍からは、順風満帆に …