「気づけない」から上手くならないってことに早く気づく。
中学1年の夏休み、
長年の夢だったピアノを、
やっとの思いで買ってもらいました。
いわゆる音楽の英才教育を受ける人たちは、
3才くらいからピアノをはじめるといいますから、
10年遅れのスタートです。
通っていた女子校でピアノをやっていた子の
誰よりも遅れていたし、もちろん誰よりも下手くそ。
すでに音楽にどっぷりだった私は、
それがもう悔しくて、悔しくて。
「ピアニストは毎日5〜6時間練習するらしい」。
そんなことをどこかで聞きかじったのもあって、
負けてなるものかと、
毎日指にトクホンを貼りながら、
学校から帰るとピアノの前に座り、
それはそれはよく練習をしました。
ところで。
ピアニストといわれる人たちの弾く曲は1曲平均4〜5分。
もっと長い曲もたくさんあります。
レパートリーもたくさんあるでしょうから、
集中して練習していれば、
もちろん、4時間5時間はあっという間に経ってしまうでしょう。
対して、初心者の私が弾いていたのは、
ハノン、バイエル、ブルグミュラー・・・
ごく初心者の弾く曲ばかり。
1曲はあっという間に弾き終わってしまいます。
ここで、はて?と悩んだ私。
ピアニストという人は、一体全体、
5時間も6時間も、なに練習しているんだろう・・・?
そこで、私はハノンの1番から20番までを1曲5回ずつ連続して弾くという、なぞのスポ根練習に取り組みはじめました。
ご存じの方も多いと思いますが、
ハノンといえば、指の強化のために
同じパターンを機械的に連続して弾く、
音楽的要素ゼロの曲。
(ハノンに音楽的魅力を感じている人がいたら、ごめんなさい。)
ハノンが嫌いでピアノのレッスンを断念したという人もいるくらい。
しかし、私は、
そうか、ピアニストはこういう練習をするのだ!と、
大発見に有頂天になり、
指や腕の痛みに耐えて弾き続けることにも快感を覚え、
来る日も来る日もハノンを練習したのでした。
ハノンはヴォイトレと似ています。
ラララララララララ〜♪
(ドレミファソファミレド〜)と歌い続ければ、
ベーシックテクニックはもちろん強化されます。
しかし、ヴォイトレと歌はイコールではない。
歌いたい歌があるから、
こう歌いたい!というイメージがあるから、
ヴォイトレが生きる。
ヴォイトレをすることが大切なように、
ハノンを練習することだって、もちろん大切です。
しかしね。
それだけやってて、
ピアノが上達するわけないんですよね。
ジャズ好きの父のレコード棚には、
クラシック音楽のレコードなどというものは、
1〜2枚しかありませんでした。
その1〜2枚ですら、我が家では、
プレイヤーにかけられたことはありませんでした。
つまり、「ピアニストになりたい!」とか言いながら、
私にとってのクラシック音楽の世界とは、
全音(ぜんおん)の譜面と、
ピアノのお稽古に集約されていたわけです。
狭っ!
当時の私にとって、ピアニストとは、
「グランドピアノの前でドレスを着て華麗にショパンを弾く人」。
小さっ。
しかもショパンの曲なんて、せいぜい数曲しか知らなかったわけです。
うまくなんか、なるわけありません。
そこに気づけないから、うまくならないんです。
やがて、同じ家に同居していた叔父が、
そんな私の機械的なピアノに飽き飽きしたのか、
「MISUMI、こういうの聞かなくちゃだめだよ」と、
ラベルとドビュッシーの名演ばかりを集めたカセットテープをくれました。
そうそう。ブルグミューラーやショパンの名演もくれたっけ。
叔父のくれたカセットを聴いて、
あぁ、そうかと。
音楽ってものをわからなくちゃ、
練習って何の意味もないんだと。
こども心になにかを発見した頃には、
すでに「ピアニストになりたい」という幻想は、
別の幻想へとメタモルフォーゼをはじめていました。
タイミング、気づき、そして執着。
何かを上達するためには、
この3つがそろっていることが肝心なのですね。
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