大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

“トレーナー”というものの役割を思う。

   

音楽の世界ってゴールはないんだよな。

ワクチンの軽い副反応で、
なかばサボりながら横になっていた昨日、
そんなことを考えていました。

ひとつの扉が開いて、光の中に進み出る。
見るもの聞くものがみな新しい、
キラキラとした世界に有頂天になって過ごすうち、
だんだんと目が慣れてくる。
すると、また新たな道が、その先に続いていることに気づく。

駆り立てられるように、またその苦しい道を歩んで、
次の扉にたどり着き、その扉をこじ開けて、
新たな光の中に進み・・・

みたいなことの繰り返しであるわけです。

そうやって、延々と、
苦しさと喜びを体感し続ける。

とはいえ、新たな道が見出せなければ、
光はだんだんと色褪せて、
「場の魔法」も薄れていくわけで。

だから、小さなゴールを積み重ねながら、
歩いて行くプロセスこそが音楽というものなのだなと。

 

その道の途中に立って、
もしくは、その道程を俯瞰しながら、

道行く人を励ましたり、叱り飛ばしたり、
成長のための無理難題をふっかけたりするのが、
トレーナーというものの役割。

主人公が光の中を、
自分ひとりで歩いて行かれるようになったら役目を終える、
ファンタジーのメンターのような、
いやいや、自分のキャラ的に言えば、
魔女のような存在かも。

 

この仕事をミッションとして受け取ってから、
ずっと、これまで私が体験してきた
驚きと冒険に満ちあふれた出来事の数々は、
今、ここにいるために経験してきたことだったのかも、
などと、思うようになりました。

突拍子もないアップダウンを経験して、
語るべきストーリーがたくさんあるからこそ、
指導者としての役割を与えられたとも言えそうです。

ずっと光を追いかけて扉を開き続けてきたけれど、
今、私がすべきことは、
光を追いかける人たちのために扉を開けてあげること。

いや。そんな優しいもんじゃない。


無理難題をふっかけて、道行く人たちをしごきまくり、
強さと勇気を引き出すこと。
そして、「さっさと開きなさいっ!な〜うっ!」と、

お尻をどかんと蹴飛ばすこと。

当分はこの役割を、
最大限に楽しみながら、やらせてもらうことにします。

◆9月4日、YouTubeにて公開中のMTLオンライン12を最大限に活用し、成果をあげていただくための、MTL “Basics”オンラインセミナーを開講いたします!詳しくはこちら

MTL “Basics” オンラインセミナー 開講!

 - B面Blog, The プロフェッショナル, ヴォイストレーナーという仕事 , ,

  関連記事

「これで完璧!」って、なぜ言える?

神は細部に宿る。 通り一遍やるなら、誰でもできる。 ひとつ、ひとつの精度をどこま …

スタジオ・ミュージシャンって何するの?

私のプロフィールには、 「500曲以上のレコーディングに参加した」と書いてありま …

本物に触れる。 本物を知る人の感性に触れる。

ずいぶん昔のことになります。 親戚の知り合いだったか、 知り合いの親戚だったか、 …

テンポが速い曲の練習方法~Singer’s Tips #26~

「ゆっくり目の曲はうまく歌えないんです。 テンポの速い曲の方が得意です。」 時々 …

自分なりの「こだわり」を見つける

かつてよく演奏していた、あるギターリストは、 常にギターは一本だけしか持たない、 …

人生は「パッション」がつくるのだ。

ある時期、心から夢中になって、 一度でも自分のカラダの中を通り過ぎたものは、 自 …

「プロ」の定義?

先日、友人の皇甫純圭さんが、 『プロとアマチュア』というタイトルのブログを書いて …

感情に翻弄されない クールに傾きすぎない

ずいぶん昔、サラ・ヴォーン(だったと思う)の来日公演を かぶりつきの席で見て、 …

「歌に必要なすべて」って何だ?

一般の人向けの歌の講座って可能なのだろうか? 2015年9月、休暇でニューヨーク …

単なるボーカリストだった私が、ボイス&ボーカルトレーナーになった理由

はじめて人に歌というものを教えたのは、 まだ、ボーカリストとしてのキャリアもそこ …