「本屋を探しても答えがみつからなかったら、そん時はお前がその本を書け」
「わかないこと、知りたいことがあったら本屋に行け。
世の中には、お前とおんなじように、わからないこと、知りたいことがあるヤツがたくさんいて、そん中の誰かが、お前の知りたい答えを、ちゃんと本にしてるもんだ。
でなぁ、MISUMI。
本屋を探しても、お前の知りたい答えがみつからなかったら、そん時はお前がその本を書け」。
父の遺してくれたこのことばは、後に、一生音楽家として生きていくはずだった私の人生を大きく変えることになりました。
教える仕事をはじめることになった時、真っ先にしたことは本屋さんにいくことでした。
歌うことのほぼすべてを、完コピで、バンドで、仕事の現場で、体験的に学んできた私には、
「伝えるためのことば」や「体系的な知識」が必要だったのです。
ところが、です。
本屋さんのどこを探しても、誰もが知っているような、ごく当たり前の理論や、
断片的な知識の寄せ集めのような本しか見つかりません。
何冊読んでも、歌うことそのものを教えてくれる、膝を打つような本には、出会えませんでした。
父の言うとおり。
私と同じように、歌に悩んで、学校の門を叩いて、本屋の店先に立って、
どこにも正解が見つけられなくて、途方に暮れた人が、きっとたくさんいるに違いない…。
本を書こうと決心したのは、その時のことでした。
とはいえ、特別な音楽教育を受けたわけでもない私が、できることは、たったひとつです。
業界の内外で評価をいただいてきた自分自身の歌を、
自分が知っていること、できることのすべてを、言語化すること。
ごく普通のバンドウーマンだった自分自身が、歌のプロとなるまでのプロセス、具体的な方法を、わかりやすく、再現性のあるように、体系的にまとめること。
「そうか。あたしという人間を、まるっと言語化すればいいんだ。」
それは、とてもシンプルで、簡単なことに思えました。
2003年のことです。
あれから、まさかの、20年。
簡単だったはずのことが、実は途方もない作業量と、無限大の裏付けと研究を要する、巨大プロジェクトだったと気づいたのは、一体いつのことだったか。
最早、時間の流れは感じられません。
ド変態と呼ばれるゆえんです。
あのとき、本屋の店先で芽ばえた想いのすべてが、20年経って、やっと形になりました。
20年…タイムマシンに乗ったような、変な気分です。
孤軍奮闘、ひとりぼっちだった戦いに
ディスカヴァーのたくさんのスタッフさんたちが心を一つにして立ち向かってくれました。
ともすると、理屈っぽい、小難しい方向に行きがちな私を
「ポップで楽しい本をつくる」という根本のコンセプトに
いつも引き戻してくれたのも、スタッフさんたちでした。
本を書きながら、教えてきた生徒たちの顔を次々思い出しました。
私を育ててくれた、現場のプロデューサーさんやディレクターさんたち、
ミュージシャンなかまのことばを何度も反芻しました。
そして、この本を手にしてくれる人たちが、
どんな想いで、何を求めて本屋さんの店先に立つのか、
繰り返しシミュレーションしました。
初めて、夢にみた「ベストセラー」という冠をいただいて、
やっと、思い描いていた世界の入り口に、立てた気がしています。
必要としているすべての人に、もれなく届けられるよう。
まだまだ、ここからです。
『これで、歌がうまくなるコツがぜんぶわかる』(ディスカヴァー)

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