大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「本屋を探しても答えがみつからなかったら、そん時はお前がその本を書け」

   

「わかないこと、知りたいことがあったら本屋に行け。
世の中には、お前とおんなじように、わからないこと、知りたいことがあるヤツがたくさんいて、そん中の誰かが、お前の知りたい答えを、ちゃんと本にしてるもんだ。
でなぁ、MISUMI。
本屋を探しても、お前の知りたい答えがみつからなかったら、そん時はお前がその本を書け」。

父の遺してくれたこのことばは、後に、一生音楽家として生きていくはずだった私の人生を大きく変えることになりました。

教える仕事をはじめることになった時、真っ先にしたことは本屋さんにいくことでした。
歌うことのほぼすべてを、完コピで、バンドで、仕事の現場で、体験的に学んできた私には、
「伝えるためのことば」や「体系的な知識」が必要だったのです。

ところが、です。

本屋さんのどこを探しても、誰もが知っているような、ごく当たり前の理論や、
断片的な知識の寄せ集めのような本しか見つかりません。
何冊読んでも、歌うことそのものを教えてくれる、膝を打つような本には、出会えませんでした。

父の言うとおり。
私と同じように、歌に悩んで、学校の門を叩いて、本屋の店先に立って、
どこにも正解が見つけられなくて、途方に暮れた人が、きっとたくさんいるに違いない…。

本を書こうと決心したのは、その時のことでした。

とはいえ、特別な音楽教育を受けたわけでもない私が、できることは、たったひとつです。

業界の内外で評価をいただいてきた自分自身の歌を、
自分が知っていること、できることのすべてを、言語化すること。
ごく普通のバンドウーマンだった自分自身が、歌のプロとなるまでのプロセス、具体的な方法を、わかりやすく、再現性のあるように、体系的にまとめること。

「そうか。あたしという人間を、まるっと言語化すればいいんだ。」
それは、とてもシンプルで、簡単なことに思えました。
2003年のことです。

あれから、まさかの、20年。

簡単だったはずのことが、実は途方もない作業量と、無限大の裏付けと研究を要する、巨大プロジェクトだったと気づいたのは、一体いつのことだったか。
最早、時間の流れは感じられません。
ド変態と呼ばれるゆえんです。

あのとき、本屋の店先で芽ばえた想いのすべてが、20年経って、やっと形になりました。
20年…タイムマシンに乗ったような、変な気分です。

孤軍奮闘、ひとりぼっちだった戦いに
ディスカヴァーのたくさんのスタッフさんたちが心を一つにして立ち向かってくれました。

ともすると、理屈っぽい、小難しい方向に行きがちな私を
「ポップで楽しい本をつくる」という根本のコンセプトに
いつも引き戻してくれたのも、スタッフさんたちでした。

本を書きながら、教えてきた生徒たちの顔を次々思い出しました。私を育ててくれた、現場のプロデューサーさんやディレクターさんたち、
ミュージシャンなかまのことばを何度も反芻しました。

そして、この本を手にしてくれる人たちが、
どんな想いで、何を求めて本屋さんの店先に立つのか、
繰り返しシミュレーションしました。
初めて、夢にみた「ベストセラー」という冠をいただいて、
やっと、思い描いていた世界の入り口に、立てた気がしています。

必要としているすべての人に、もれなく届けられるよう。
まだまだ、ここからです。

『これで、歌がうまくなるコツがぜんぶわかる』(ディスカヴァー)

■本気でうまくなりたいと思ったら、迷わず受けて欲しい。
6日間にコミットして、歌に対する自己肯定感を一気にあげてください。
第10期 MTLヴォイス&ヴォーカルトレーニング。11月開講です!

 - My History, The プロフェッショナル, クリエイト, ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

どんなに「ふり」をしても、オーディエンスは一瞬で見破るのです。

「わからないことを、わかっているかのように、 できないことを、できるかのように語 …

人前に立つ前の「MUST DO!」〜ビジュアル・チェック編〜

昨日のブログ、人前に立つ前の「MUST DO!」〜ムービー/チェック編〜の続編で …

楽しくやるから、いい仕事ができる。

ニューヨーク時代、日々の生活で最も気になったのは、 巷で働く人たちのやる気のない …

ちゃんと鳴らせ。

以前、お世話になった大洋音楽出版の水上喜由さんが、 「スティーブン・スティルスが …

わかりやすくうまい人 vs. さりげなくうまい人

「歌のうまい人」には2種類います。 ビヨンセやホイットニーやアギレラみたいに、 …

ことばにするチカラ

「天才は教えるのが下手」と言われます。 だって、普通にできるから、 どうしてそれ …

発信することは、ライブ・パフォーマンス。

「毎日、すごい勢いでブログをあげてるね」 最近、そんな風にいわれます。 しばらく …

「ちゃんと聴く」技術。

自分の歌って、ぶっちゃけどうですか? いきなり、そんな質問をされることが、よくあ …

「教える者」であるということ

学生時代。 先生が生徒をジャッジするより、 生徒が先生をジャッジすることの方が圧 …

無限の可能性の中から選び取る、 たった一つの音。

レコーディングなどで自分の声と向き合うと、 声というものの表現の無限の可能性に、 …