大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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Myマイク派 vs. Anyマイク派

      2025/08/01

最近、レッスン、ライブ、リハーサルなどに、
自分のマイク、いわゆる「Myマイク」を持ち込んでいる人をよく目にします。

 

自分の声を少しでもいい音で届けたい。
マイクのクオリティで自分の声が左右されるのが心配だ。
衛生面が気になるから、不特定多数の人が使うマイクは使いたくない。

 

さまざまな理由があるようです。

確かに、リハーサルスタジオやライブハウスなどで使われているマイクの多くは・・・

1.なんと言っても、きちゃない。(汚い)

2.ぶつけられたり、落っこどされたりで、ボコボコになってたりする。

3.時々、「あふっ!」というくらい、くちゃい(臭い)。

4.使い込まれすぎて、劣化しているものもたくさん紛れ込んでいる。

5.グレードの低いモノや粗悪品が紛れ込んでいたりする。。。

などなど、あてにしていると裏切られることもあります。

 

そういう意味では、MYマイクを携帯するのは、
賢明な安全対策であることは間違いなさそうです。

 

では、ANYマイク派は、計画性のない、行き当たりばったりで、
衛生面など無神経な人たちなのでしょうか・・・?
いえいえ。そういうことではありません。

ちょっと考えてみましょう。

 

そもそもの声の質や音量を決めるのは、マイクではありません。

いい声が出ないなら、
ことばがハッキリ聞こえないなら、
そして、声の輪郭がくっきりしないなら、

マイクを買い替える前に、
まず自分の声と歌をなんとかすることを考えるべき。

ハッキリ言えば、

よほどの粗悪品でない限り、
本来の声のクオリティを著しく損ねるようなマイクはないはずです。

弘法筆を選ばず、ではないですが、
一流のプレイヤーは、どんな楽器で演奏してもそれなりのクオリティの音を出します。
どんなマイクが出てきてもビクともしない声と歌があれば、
よほど状況のわからない、音響の整っていない場所に行くのでない限り、
いちいちマイクを携帯しなくちゃいけない、などということはないはずです。

 

個人的には、パフォーマンスにおける自分のベストの声を本当にジャッジできるのは、
カラダの中で豊かに鳴っている声と外部に出た声を、
同時にキャッチして聴いている自分自身ではなく、

空間の共鳴音を含めた自分の声を、他の楽器とのブレンドの中で、
客観的に聴いてくれるエンジニアさんなのではないかと考えています。

 

そもそも、自分自身がステージに立ったり、スタジオで歌っているときに、
モニターやフロントスピーカーから聞こえてくる声は、
音響機器というフィルターを通して、
増幅され、EQされ、エフェクトされ、できあがってくる声。

それらの音をコントロールしているのは、
他でもない、エンジニアさんです。

つまり、マイクは、最初の音の入口に過ぎず、
実際に自分の耳にかえってくる時には、
思いきり、エンジニアさんの「好みの声」になっているわけです。

 

それならば、エンジニアさんの好みのマイクをつかってもらい、
肝心の音は、エンジニアさんとのコミュニケーションを通じて
作り上げるのが妥当ではないか?

そもそも、自分の声のベストを決められるほど、
自分の声をわかっていないのに、マイクだけ自分の好みのものを持つというのは、
何とも、中途半端な抵抗に感じはないか?

 

これがANYマイク派の根底にある考え方でしょうか。

(もちろん、単純に「マイクを持って歩く習慣がないから」という人もたくさんいますね)

さて、結論としては。。。

1.マイクを選ばない、いい声を出す。育てる。

2.その場にある、定番のマイクを使う。
もしくは、信頼できるエンジニアさんに、アドバイスをもらう。

3.ただし、現場のマイクのクオリティに不安があるなら、MYマイクを持参する。

4.衛生面が不安なら、消毒綿などで消毒してみる。

5.きちんとリハーサルをして、エンジニアさんとコミュニケーションを取る。

 

というところでしょうか?
 

いかがですか?

 

MYマイク派も、ANYマイク派も、
今一度、マイクとの付き合いを考えてみたいものですね。

レコーディング現場などでのマイクのお話や、
毎日同じ音響スタッフさんに同じ機材でPAを担当してもらえるクラスの人のお話は、
また今度書きますね。

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 - The プロフェッショナル, 声のはなし

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