大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

説明不要。ダメ出し無用。

   

「う〜ん。イマイチだなぁ。。。他にないの?」

アイディアや歌詞、曲デモなどを提出して、
こう言われたら、その時点でアウト。
 

プロデューサー、ディレクターという類の人たちの、
こうした直感による判断が覆ることは、まず、滅多にありません。
 

「アレンジをもう少し練れば、
うんとまとまるのではないかと思うのですが・・・」

「後半のサビが結構いいので、もう少し聞いていただけば・・・」
 
提出する方としては、
いろいろ説明したくなるのが人情。
 

「これで決めなければ、大変なことになる・・・」
と、焦る時ほど、人は雄弁になります。
 
しかし、言えば言うほど逆効果。

「なら、アレンジ練ったやつを持ってきて」
「後半にならなきゃ、良さがわからないような曲、だめだろう!」となる。

 

以前、メジャークライアントのCM曲に英詞をつけるお仕事に
抜擢されたことがあります。

CMのお仕事のご多分に漏れず、ケツかっちん。

夜にもらった曲に、朝までに歌詞をつけ、
夕方には、スタジオに入ってデモを録る、という、
なかなかにハードなお仕事でした。
 
あーでもない、こーでもないと悩んだあげく、
やっとの思いで、仕上がった歌詞をプロデューサーさんに送ると、
 
いきなり、
「この出だしの”Never”って単語、ダメだから変えて」。
 
Never Give Upということばの、
“Never”がネガティブだからNGだ、と言うのです。
 
サビ始まりの、いわば、決めぜりふのような言葉です。
ストーリーも、サビの韻も、
その言葉を元に組み立てられています。
 
正直、「はぁ〜!?」となりそうな気持ちを抑えて、
可能な限り冷静に説明をはじめました。
 
「Neverという単語を単独で使っているわけではないですし、
Never Give Upというのは、とてもポジティブなメッセージで・・・」
 
「あなたの意見は聞いてない!
黙って書き直せばいいんだっ!!!!」
 
泣く子も黙るプロデューサーとして有名だった方です。
 
すごみのある声で、そうぴしゃりと言われ、
「わかりました」と電話を切りました。
 
(電話を切った後、悔しさのあまり絶叫したのは言うまでもありません・・・)

 
後になって、冷静に考えれば、
そのプロデューサーさんの言うこともごもっともと理解できますが、
そこはクリエイター。
 
夢中でつくっていて、余裕がないと、
なかなか他人のことばを素直には聞けないものです。
 

さて。
 
制作者の意図と、
クライアントの意見が食い違うことは日常茶飯事ですが、
 
本当にいい作品、
影響力のある作品は、
クライアントの思惑を越える説得力を持つことがあります。
 
求めていたものとは全然違うけど、
なんか、すんごいいいから、これでいこうっ!となる。
 
そのクライアントからNGが出ても、
周囲に影響を与え、他の仕事に繋がっていくこともあります。

 

まずは、自分自身、
「これが正しい」という感覚を得られるような作品をつくること。
 

作詞作曲しかり、書き物しかり、
そして、楽器の演奏も、歌のパフォーマンスもしかり。
 
それがたとえ、クライアントの思惑と違っていたとしても、
その作品、パフォーマンスのチカラが、
やがて、次のステージへの道を切り開いてくれるのです。
 

ダメ出し無用、説明不要な作品をつくる。
音を出す。
 

いつも目差したい、ゴールです。

25375617 - novelist throwing wrinkled paper because of writer

 - The プロフェッショナル

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