「譜面がなくちゃだめ」と思ってしまう自分にまず疑問を持つ
2015/10/30
「ボクは音楽は全然ダメですよ。そもそも譜面が全く読めないんだから」
音楽をやっている人間からすると、これほど不思議な発言はないのですが、
実は、音楽が苦手という人には、こんな風に考えている人が結構いて驚かされます。
譜面はいわば、音楽を演奏する上での地図。
みんなで同じゴールに向かって、迷わないように確実に進むための、
目印がふんだんに盛り込まれた地図です。
では音楽は何かと言えば、旅そのもの。
地図がなくたって、旅は充分楽しめますし、
手をつないで歩けば、お互いはぐれることも迷うこともない。
ときに迷っても、それがかえって、旅の味わいを深めることさえある。
むしろ、地図を頼りにし過ぎて、地図ばかり見ながら歩いていたのでは、
肝心の景色を楽しんだり、
道中思いがけない出会いに心動かされたりすることもできません。
実際、活躍しているミュージシャンにも、譜面の読めない人はたくさんいます。
以前、ロンドンでレコーディングに立ち会ったときのこと。
「彼はクラッシュのサポートでキーボード弾いてたんだ」
というキーボーディストがスタジオに現れました。
彼はキーボードの前に座ると、「じゃ、流して」といきなり曲を聴きながら、
キーボードを弾きはじめたのです。
もちろん、彼にとっては生まれて初めて聞く曲。プレイはめちゃくちゃです。
しかし、彼は「譜面は?」と聞いてくるどころか、メモさえ取りません。
「あ〜あ。大丈夫かしら、この人」と思ったのもつかのま。
「もう一回流して」と言って弾きはじめた彼のプレイは、
驚くほど気持ちよくツボを押さえた、カッコいい演奏でした。
そうです。
譜面はあくまでも、コミュニケーションツールのひとつとして存在しているもの。
特に、ポップスやロックの場合、「演奏する上でなくてはならないもの」、
という位置づけではないのです。
オーケストラやビッグバンドのように、
大勢で情報を共有しなくちゃいけないときや、
演奏や曲そのものを後世に残したいとき、
実際に聴くことができない人に、曲のよさを伝えたいとき、などなどに、
必要だから生まれたもの。
道しるべがわりに、旅の途中で頼りにすることはあってもいいでしょうし、
大勢で作戦会議をするときに広げてもいいかもしれない。
しかし、初見でこなさなくちゃいけないスタジオの仕事や、
思い入れのないサポートの仕事で何曲も演奏しなくちゃいけないという場合、
生放送など、絶対にミスのできない現場での演奏以外、
「譜面がなくちゃだめ」と思ってしまう自分にまず疑問を持つべきです。
譜面を追うことに一所懸命で、いい演奏ができるわけがないのです。
曲がしっかり頭に入っていれば、
行き方のメモ程度があれば、充分演奏は可能なはずです。
そもそも、ステージ上で盛り上がって、プレイヤーを振り返ったときに、
全員が譜面をガン見していて、目が合わないというときの寂しさは、
経験した人にしかわかりません。
コミュニケーションツールであるはずの譜面。
これでは本末転倒ですね。
譜面に関してのお話は、まだまだたくさんあるので、折りに触れ書いて行きたいと思います。
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Comment
そのように発信してくださるプロの方がいらっしゃることが本当に嬉しいです。
ありがとうございます。
小学校1年生の時にハーモニカが吹けなくて先生に笑われて、子供の頃は音楽そのものが嫌いでした。
15歳の時にロックと出会って、何故か自分もあんな風に弾きたくなって見よう見マネで弾きだしてもう30年以上経ちました。
若い頃、クラシックのプロの方に『楽譜が読めないなんてミュージシャンとして最低です』と言われて大喧嘩したりもしました。
さすがにこれだけ長くやってると譜面に何が記されているかぐらいはなんとなくわかるけど、そこに書ききれないことの方が音楽には大切な要素なんだとずっと思ってます。
確かにステージで周りを見渡してみんなが楽譜とか歌詞カードをガン見してたら腹たちますよね^^;
今日はいい勉強させていただきました。
ありがとうございました。
これからも頑張ってください!
コメントありがとうございます。
クラシックの方は、オリジナル演奏が残っていないので、「モーツアルトはきっとこんな風な音で、テンポで、表現して欲しかったんだ」というようなことが、譜面からしか想像できないのですね。だから譜面は命です。
ジャズ時代以降、オリジナルバージョンも名演もほとんどが音になって残っています。目が見えないで耳を頼りに音楽をやっているプロフェッショナルもいます。
「感じること」がすべてですよね。