大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

パフォーマーはいつだって、その美意識を試されているのだ

   

ヴォーカリストは、すっぽんぽんになって、
自分の内側外側をさらけ出すようなお仕事ですから、
自己評価が低い人は、あまり適性がある職業とは言えません。

とはいえ、作品の多くは、
過剰なほどの自意識、自己嫌悪、コンプレックスなどなどから、
生まれるとも言える。。。

ヴォーカリストであろう、
アーティストであろうとすることは、
こうした心の葛藤に打ち勝つため、
日々、自分自身と戦うということなのかも知れません。

 

オーディエンス側から見ると、
ヴォーカリストがしゃきーんとステージの上に立っている姿は、
もう身震いするほどカッコいいもの。

しかし、自分がパフォーマーとなると、
オーディエンスから一斉に注がれる視線を浴びながら、
なんにもしないでステージの真ん中に立っていることくらい、
恐ろしい事はありません。

 

その恐ろしさに耐えられず、
思わず、もじもじしてしまうようでは、
パフォーマンスはまだまだ。

照れくさいからと、
冗談を言ったり、おちゃらけたりしたら、
せっかく高揚しているオーディエンスの気持ちは、
違った方向に向いてしまいます。

 

中学時代、部活動で英語演劇で、舞台に立ったことがあります。

生まれて初めての立ち稽古の日、
コーチに、「あそこまで普通に歩いて」と指さされて、
「え?普通に歩くって?どうやるの?」
と、耳元まで血が上るのを感じたことを、
今でも鮮明に覚えています。
 

人の視線を意識すれば、
いつも自然であることも、けして自然にはできません。

「自然体」と言われている人も、
「自然に動いている」のではなく、
「自然に見えるように動いている」。

そこに、計算と修練の積み重ねがあるのです。

 

パフォーマーは、いつも、
その勇気と度胸と美意識を試されている。

少なくとも、私は、そう信じています。

28498570 - young and muscular man performing a contemporary dance pose on a stage a black and white image with grain added as effect

コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』
購読はこちらから。

 

 - Live! Live! Live!, The プロフェッショナル

  関連記事

「完全無欠」を更新する。

「自分の頭の中にあることのすべてを文字化したい」などという、 イカれた考えに捕ら …

誰に話しても「ウソぉ〜」と言われるOnline映像制作秘話③

当初、編集は誰かに頼む予定でした。 映像編集なんてやったこともないし、 できる気 …

パフォーマンスは「鮮度」と「完成度」が命!

「僕は自分の過去には一切興味がないんです。 だから自分の作った作品も全部処分しち …

「送り手」になりたかったら、「受け手」と同じことをしていたのではダメです。

「歌が好きだから、毎日歌っているんですよ」という人は、たくさんいます。 毎週のよ …

「歌の練習」って、なにしたらいいんですか?

「練習って、なにしたらいいんですか? MISUMIさんは、なにしてるんですか?」 …

「観客総立ち」を演出するプロの仕掛け

先日、キャロル・キングのケネディー・センター名誉賞をたたえて、 アレサ・フランク …

音楽をやる理由?

自分とおなじくらい「音楽に夢中」という友達に出会えないことが、 学生時代の悩みで …

まず、自分の出音(でおと)をちゃんとせい。

トレーナーズ・メソッド、リズム編のテキスト制作中にて、 古今東西のドラマーの名演 …

「歌の表現力」ってなんだ?

表現力と言うことばを聞いたことがあるでしょうか?   「彼はテクニック …

レッスンでは、トレーナーの「アーティスト性」は無用どころか、邪魔なんだ。

レッスンの折には、多かれ少なかれ、 生徒たちに、歌を歌って聞かせるシーンというの …