大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「ライブのダメ出し」のタイミング?

      2015/10/25

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2015年11月21日(土)
『ダイジェスト版 MTL ヴォイス &ヴォーカル オープンレッスン12』

2016年1月、MTL、初のヴォーカリスト向けオープンレッスンを開講します。
まずはダイジェスト版のお知らせです。

*一般向け情報公開一日で満席になりました。急遽、わずかですが、増席いたしましたが、
そちらも残り1席のみ。以降のお申し込みはキャンセル待ちになります。
詳しくはこちらです。

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何事も上達するための秘訣は、
行動、フィードバック、改良、リトライを繰り返すこと。

 

そうそう。
よくわかっています。
ライブだって、もちろん、お客さんやスタッフのフィードバックや、
反省会は必要不可欠。
今回よりも次回、次回よりもその次と、回を追う事に、
より魅力的で、パワフルなライブにするためには、
ただ「楽しかったね〜!」で、
毎回、お酒を飲んで盛り上がって終わっていてはダメなんです。

しかしです。。。

物事にはタイミングというものがある。
学習には最適なタイミングがあるのと同じように、
マイナスのタイミングというのもあります。

とあるアーティストのライブの打ち上げ会場でのこと。
仕事の関係でどうしても本番を見られなかった私は、
お誘いを受けたこともあり、挨拶を兼ねて、打ち上げ会場に顔を出しました。
ところがです。
お疲れ様で盛り上がっているはずの打ち上げ会場なのに、
その場に居合わせたスタッフ全員が悲痛な形相で、ただかたまっている。
見れば、席の真ん中に陣取った事務所の社長さんが、
目の前でうなだれている、その日の主役だったアーティストを、
ものすごい剣幕で叱り飛ばしているのです。
どうやら、そのアーティストくん、
本番、あまりの緊張に歌詞が飛んでしまったり、MCで絶句してしまったりと、
さまざまな失敗をしてしまったようす。
本人にも、自分がダメだったところがわかっているだけに、
その落ち込みようは、気の毒なほどでした。
聞けば、社長は毎回そのようすで、ライブ直後にダメ出しをするといいます。
確かに、期待している新人なので、熱が入るのは無理もありません。
スタッフや他の若手の手前もあるでしょう。

しかし、真面目で一所懸命な子ほど、
そうした教育方法は逆効果である場合が多い。

ちょっと失敗すると、「あ、これでまたすごい剣幕で叱られる」と思うと、
ますます緊張し、萎縮してしまい、さらなる失敗を繰り返してしまいがちです。

 

もちろん、芸能界で生き延びていくためには、
そんなヤワなことではダメだということもよくわかります。
しかし、ここであえていうなら、
人は、自分のしたことを、自分で顧みて、発見し、検証し、
次への行動指針を組み立てていくことでしか、本当の成長はできない。
人に何を言われても、自分の腑に落ちないことは、
単なる情報でしかないのです。

ステージに立った経験のある人ならわかると思いますが、
ライブの後は、誰もが多かれ少なかれ高揚しているものです。
特に感情が高ぶるヴォーカリストにとって、
冷静に自分を見つめ直すことは非常に困難です。
この段階でのヴォーカリストの気分は「最高」か「最悪」かの二つに一つ。

「今日は、最高だった!」と高揚し、いい気分でステージを降りてくるか、

「あぁ〜〜、ダメダメダメ」と、ブルーな気分で降りてくるかの、
どちらかなのです。

ここに、客観的な視点を持ち込んでも、実はあんまり意味がありません。
「最高だった」と思っている人にダメ出しをすれば、
相手の気分を台無しにして、恨まれる以上の効果はありませんし、

「最悪」と凹んでいる人に、どれだけ「よかったよ〜!」と言っても、
そう簡単に気分を浮上させてはくれません。

感情が激しく動いているときに、知性は働かない。
それは学習のタイミングではありません。
動物ですから、仕方ないんです。
そういう意味で、ライブ直後の反省会も、
感情論になりがちであまり意味がないと考えています。
ライブの後に悪いイメージばかりが残れば、次のライブに悪い影響を与えかねません。
ライブの後は、「おつかれさま!」とお互いをねぎらう。
いい気分を共有する。
打ち上げは、単にお酒を飲む場ではなく、そういう場であって欲しいなぁと。
じっくり、しっかり、反省会をすべきなのは、
心身ともにクールダウンして、
冷静に自分自身を顧みられる、翌朝以降のタイミング。
もちろん、多忙かつ売れっ子なアーティストとなれば、
そんな甘いことは言っていられないことは承知の上で・・・

スタッフのみなさまにも、ぜひご一考いただきたいポイントです。

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 - The プロフェッショナル

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