大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「ミュージシャンズ・ミュージシャンなんか嫌じゃい!」

   

「ミュージシャンズ・ミュージシャン」ということばを聴いたことがあるでしょうか?

Weblioの実用日本語表現辞典によれば、
「ミュージシャンのうち、特に音楽のプロであり同業者であるミュージシャンから支持されているミュージシャンを指す語」。

業界ではその実力を高く認められ、その名も知られているけど、
一般の人にはあまり知られていない人をさすことが多く、

Weblioでは、こう続きます。

「必ずしも一般消費者の受けがよいとは限らないが、専門家から高く評価されているミュージシャン。」

 

まぁ、誰もが知っている、
いわゆる「スター」とは一線を画する、渋い存在でありながら、
その「スター」たちにも一目置かれる存在、というところでしょうか。

 

 

ミュージシャンたちが、他のミュージシャンに対し、
尊敬の念を込めてつかうことばでもあります。

 

 

「ミュージシャンズ・ミュージシャンなんか嫌じゃい。
文ちゃんは、みんなの文ちゃんがいいんじゃい・・・。」

 

3年前に亡くなった、
友人であり、大好きなキーボードプレイヤー、
小川文明さん=文ちゃんの、忘れられない一言です。

 

楽屋に訪ねてきたファンの人に、賞賛と尊敬の念を込めて、
「ミュージシャンズ・ミュージシャン」と呼ばれ、
爽やかに「ありがとう」と握手をして、その人を送り出した後に、
ぽつりと、つぶやきました。

 

実際、文ちゃんは、さまざまなバンドやメディアで活躍した、
いわば、「スタープレイヤー」のひとり。

彼にそう言った方は音楽通風の方だったと記憶していますから、
文ちゃんが、「スタープレイヤー」であることを充分踏まえた上で、
ミュージシャンにも尊敬される存在ですよ、と伝えたかったのでしょう。

それでも、「ロックスター」を愛してやまなかった文ちゃんにとって、
どれだけ実力を評価されることばだったとしても、
「ミュージシャンズ・ミュージシャン」は、
褒め言葉とは感じられなかったに違いありません。
 

この人、カッコいいな。

心底思いました。

 

どんなに実力があっても、
どんなに業界やミュージシャン仲間に認められていても、
どんなに稼いでいても、

メディアに登場しない、
名前も聞いたことのないミュージシャンは、
一般の人にとっては、
無名なフリーター&バンドマンと、なんら変わりありません。
 
扱いも軽いし、たいした興味も持ってもらえないのが通常です。
 

自分が関わったお仕事や、
一緒にプレイした有名人の名前を出した瞬間に、
へぇ〜といきなり態度が変わる一般の人も少なくないでしょう。
 
ちょっと演奏すると、
「やっぱりプロは上手だね」
と、十把一絡げにされるのがせいぜい。

 

自分が、自分として知られなければ、面白くない。
 
口に出さないまでも、
そんな風に心の中で思っているミュージシャンは、
実はたくさんいるはず。

 

自己評価と他人の評価のバランスが悪くって、いらついている人、
他者に対して、尊大な、横柄な態度を取ってしまう人、
ひねくれたり、カッコつけたりしてしまう人・・・
 
そんな残念なミュージシャンがたくさんいる中で、
 
「みんなの文ちゃんがいいんじゃい。」と、
ことばに出して、言い放ってしまう潔さ。

実にロックです。

 

 

一般の知名度と、音楽的な実力はイコールではありません。
 
知名度があるから、売れたからといって、
ミュージシャンの言うところの、
いわゆる「いい音楽」「いい演奏」とは限りません。
 
しかし、知名度がある、売れているということは、
それだけ、たくさんの人の心に届く何かがあるということ。
 
実力を磨いて、業界で認められる努力をするのとおなじくらい、
たくさんの人の心に届けるにはどうしたらいいかを考え、発信し続ける。
 
「みんなの○○」になる人は、そんなことをきちんきちんと、
積み重ねてやって行かれる人なのかもしれません。

 

自らのミュージシャンとしてのあり方に想いを馳せるとき、
いつも決まって思い出す、懐かしい声です。

◆ 9月9日(土)【MTL Live 12】MTLの文化祭&感謝祭、開催

◆ 9月30日(土)【第4期 MTLヴォイス & ヴォーカル レッスン12】開講決定!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』購読はこちらから。

 - The プロフェッショナル

  関連記事

「華がある人」になる

「あの人は華がある。」、 反対に「華がない」ということばを耳にします。 &nbs …

たったひとつの正解を探す~Singer’s Tips #34~

キーは、 どんな表現をしたいか、 どんな効果を狙うか、 自分のどんな表情を切り取 …

「歌の練習」って、なにしたらいいんですか?

「練習って、なにしたらいいんですか? MISUMIさんは、なにしてるんですか?」 …

「オリジナリティ」ってなんなのよ?

「○○って落語家はすごいんだぞ。 一流と言われた落語家をぜんぶ研究して、 みんな …

譜面台を立てる時のチェックポイント〜プロローグ〜

こちらのブログで繰り返し語っているように、 「ヴォーカリストたるもの、 人前で歌 …

「クリエイトすること」はゴールではない

「どんな仕事に携わっていても、何をクリエイトしていても、 大切にすべきことの本質 …

誰に話しても「ウソぉ〜」と言われるOnline映像制作秘話③

当初、編集は誰かに頼む予定でした。 映像編集なんてやったこともないし、 できる気 …

「想像力の限界」を認める

「ある程度、想像がつくこと」と「想像を越えること」の間には、 「経験」という決定 …

「ヘタウマ」な人、「じょうず」な人、「いい声」の人。

若かりし頃、よく言われたことばに、 「キミってヘタウマだよね。」というのがありま …

「自分の音域を知らない」なんて、意味わからないわけです。

プロのヴォーカリストというのに、 「音域はどこからどこまで?」 という質問に答え …