大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

歌には”仕掛け”と”意図”がある!

   

昨今、カラオケのおかげか、
はたまたYouTubeやアプリのおかげか、
巷に歌のじょうずな人が増えたなぁと感じています。

一昔前なら、バンドやコーラスチームなどの音楽活動をしているか、
レッスンに通っているような人でなければ歌えなかった、
難しいメロの歌やキーの高い歌、テンポの速い歌などなどを、
楽々と歌う、ごく普通の人たちを、
さまざまなシーンで見かけるようになりました。

「となると、カラオケが大好き、カラオケが趣味、という人たちと、
本気で歌をやりたい、歌でプロになりたいとがんばっている人たちとの、
線引きって曖昧になりますよね?」

なんてことを言う人がいるんですが、そんなことはありません。

上手な人がどんなに増えても、
ホントの意味で、シンガーの資質を持っている人の確率って、
実はあんまり変わっていない。

そもそも、「線引きが曖昧」なんてところでうろうろしているうちは、
歌の道はまだまだです。

 

どんな歌にも、「意図」がある。

自分自身から、どんな場面で体験した、どんな感情を取り出すのか。
それを、どんな表現で届けるのか。
聞き手に何を受けとって欲しいのか。
聞き手の感情をどう動かしたいのか。
そのためには、どんな音楽的な仕掛けを盛り込むのか。

歌は、そんな送り手の「仕掛け」に溢れています。

 

このフレーズとこのフレーズを対比させて歌うと、メロディが印象的になるな。
このことばは、こんな声で歌うと、もの悲しさが伝わるかな?
ここでブレスの音を大きめにいれると、ドキッとするよね?
Bはあえてタテノリで歌った方が、Cのグルーヴが際立つな。
サビの最後は力強いロングトーンから、
途中ビブラートをかけて、感動的に仕上げよう…etc.etc……

 

歌い手は、こんな選択を、意識するしないにかかわらず、
絶え間なくやっています。
自分が意図したように、うまく歌えないと、そこを何度も練習するし、
仕掛けがハマらないと、あれこれ試行錯誤もします。

歌の端々に、歌い手の美意識が宿っているんですね。

そんな、歌に仕組まれた仕掛けと、歌い手の意図の数々を読み解いて、
どうやって自分自身の表現に昇華していくか。
それこそが歌い手の、本当の意味での修行です。

しゃくりがどうの、メリスマがどうの、ビブラートがどうのと、
ゲーム攻略に夢中になったり、
カラオケの採点に一喜一憂しているようでは、
絶対に「カラオケ好き」以上にはなれません。

 

微差は大差。

そして、こういうことを「微差」と感じているうちは、
まだまだってことなんですな。

修行は続きます。

■2023年3月、3年ぶりに開講。MTLヴォイス&ヴォーカルトレーニングの詳細はこちらです。
6日間を1日にぎゅっと凝縮、ダイジェスト版は1月28日です。
●「歌の微差に気づく!」、サブスク“声出していこうっ!Monthly Video Program”。

 - Singer's Tips, The プロフェッショナル, プロへの突破口, 歌を極める

  関連記事

「見せ方」にこだわる

Honda ZのCMのお仕事で、ZZ topのボーカルレコーディングに立ち会うた …

「やった方がいいかな?と思うことはぜんぶやってください」

講演やプレゼン、歌のパフォーマンスなどのレクチャーをしていると、 「準備ってどこ …

リズムをカラダで感じるための初歩練習~Singer’s Tips#28~

音楽にあわせて足踏みをする。 手を叩く。 小さなこどもが音楽教室に入って、 一番 …

誰に話しても「ウソぉ〜」と言われるOnline映像制作秘話③

当初、編集は誰かに頼む予定でした。 映像編集なんてやったこともないし、 できる気 …

「自分基準」を育てる。~Singer’s Tips #3~

「本当に実力がある人」って、 今、自分が何をしているか、 確実に理解しているもの …

「なり方」なんて、きっとない。

 「普通の人とおなじことしてたんじゃ、何者にもなれないでしょ」 ボイトレに通って …

自分の名前をGoogleで検索する?

今日は著者なかま&朋友、デザイナーのウジトモコさんの新刊『SNS xDESIGN …

「認められたい」という思いを叶える方法

「音楽ビジネスって、社交クラブみたいなものなのよ。 一度中に入れば、そこから自然 …

「圧倒的な安心感」をくれるプレイヤーの条件

魅力的なプレイヤーたちとのパフォーマンスはドキドキ感の連続です。 心地よい音色と …

ミュージシャンに、定石も王道もない!

「MISUMIさんは、何才から歌っているんですか?」 「やっぱり楽譜が読めないと …