「ステージの上って、どこ見て立ってたらいいんですか?」
「ステージの上って、どこ見て立ってたらいいんですか?」
謎の質問です。
最初、聞かれたときは意味がよくわかりませんでした。
しかし、質問してきた彼の意図としては、
ステージはいささか広い。
客席は真っ暗。自分たちはライトの中にいる。
歌っているとき、そうでないとき、
一体全体、自分はどこを見て、何をしていたらいいのか・・・
「結構、途方に暮れるんです」ということ。
ステージを経験したことのある人ならわかるでしょう。
スポットライトで抜かれた瞬間、
あたりは真っ暗。「ライトと私」状態になってしまうのです。
ステージが広ければ広いほど、この「ライトと私」感は強くなります。
特にボーカリストはセンターに立っていますから、
ステージ上の他のメンバーさえ見えなくなるときもあります。
これは恐ろしい感覚で、
まるで突然トンネルの中に放り込まれたような錯覚さえ覚えます。
しかも、自分にはライトしか見えないのに、
回りの人はみ〜んな自分のことがくっきり見えているわけです。
「どこ見て立ってたらいいんですか?」
という気分になるのもよくわかります。
さてでは、どうしたらいいのか?
もちろん、まぶしくて目を閉じてしまっては、パフォーマンスとしては残念です。
ライトを浴びると途方に暮れるからと、最初からサングラスをかけ、
そのままそれがトレードマークになってしまう人もたくさんいます。
「非常口のマークを探して、それを見ていろ」と教えてくれた先輩もいました。
まぁ、小さいライブハウスなどだと、
非常口のマークがそうそう毎回都合よく、真後ろにあるとも限りませんが、
この「非常口のマーク」または「それに類するもの」を探して見つめる作戦は、
なかなか有効でした。
大事なのは、その印が、ステージの中央の対面にあること。
たとえ、コーラスなどのお仕事で自分の立ち位置が端だったとしても、
目標にするのは、基本はステージ中央の対面です。
中央の一番後ろの席に向かって視線を集めることで、
会場全体を見ている雰囲気が作り出せます。
ここがホームポジション。
決めどころなどでは、多くのパフォーマーが、
この、ステージ中央に向かって焦点を合わせます。
そこから、近くに目を移したり、会場を左右に見回したりするのです。
正直、ホールクラスのステージで、強いライトを浴びているときに、
前から10数列目以降のお客さんの顔を見ることは、
客電といわれる、客席のライトが明るくない限り、非常に難しいでしょう。
しかしです。
すぐれたパフォーマーは、この状況でも完璧なイリュージョンをつくりあげるのです。
横浜アリーナにエアロスミスのコンサートを見に行ったときのことです。
「あらあら。スティーブンったら、私ばっかり見つめて歌ってるぅ〜。
きっと私のこと、タイプなんだわぁ。
コンサート終わって、楽屋に呼ばれちゃったらどうしよう・・・」
ステージ上のスティーブン・タイラーが、
アリーナ中央あたりの席で立ち上がって盛り上がっている私に、
あの強烈な声で歌いながら、熱い視線を送って来ます。
今にも、ステージ裾にいるスタッフに合図して、
私をこっそり楽屋に呼びにこさせるのではないか・・・
実際にそうやって楽屋にファンを呼び寄せている男性歌手を目撃したことがあり、
コンサートが終わって、出口に向かって行列を作りながらも、
まだ、そんなリアルな妄想が消えずにいました。
そのときです。
傍らで、同じステージを見ていた連れが、にやにやしながら言うのです。
「俺って、でかいしさ、やっぱどう見ても音楽やってる感じだから、
目立つんだろうね」
「は?」
「結構よくスティーブンと目が合ったんだよね〜」
そうです。
先ほども言ったとおり、横浜アリーナクラスのホールで、
アリーナ中央に座っているお客さんの顔がひとりひとり見えるわけがありません。
しかもスティーブンはライトの中にいる。
それは、スティーブンの視線が、完璧に「誰か」をとらえているように、
じっと据えられていたからこその、イリュージョンなのです。
ステージの大小にかかわらず、
ボーカリストは、この、イリュージョンを操らなくてはいけない。
来たお客さんに、「結構目が合いましたよね」「私、目立ってましたか?」
そんな質問をされるようになったら、イリュージョンは成功。
それまでは、精進です。
<Day-to-day>
昨日から今日にかけて20時間ほど眠ったせいか、風邪もほぼ復活しました。ワンマンライブを控えたガールズバンドのボーカリストのボイトレ、女性R&Bシンガーのラジオ生放送用クリスマスソングの準備、半年ぶりに登場した女性シンガーのボイトレ・・・と今日もマラソンレッスン。
夜はビジネス仲間とパワー会食でした。。最近の私的キーワードは「隠れ家」。ステキなお店って、たくさんあるなぁ。
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