だから、「でかい声」を出したいわけじゃないのよ。
お年寄りが大きな声で話すようになったら、耳が遠くなってきたことを疑えといいます。
人は自分の声を聞きながら、「ほどよい聞こえ具合」に自分の声を調整しながら、話したり歌ったりするもの。
聴力が落ちたり、騒音の中で話したりすると、この「ほどよい聞こえ具合」を求めて、自然に声の音量があがるわけです。
一方で、誰でも、自分にとって「適正な声の大きさ」というのがあります。
この適正音量以上の声を出すと、力んだような、聞き苦しい声になる。
気張って出すほどに、声のニュアンスを調整するどころか、音程を取ったり、まともにことばを発音するのも難しくなります。
さて。
モニターって、この「ほどよい聞こえ具合」を調整するためにあるもの、いや、あるはずなんですが、ロックバンドとかやってると、そうは問屋がおろしません。
そもそも、プレイヤーも、聞き手も、爆音を聞くことによるアドレナリン効果を期待するようなところがある。
ドラマーはドカンと迫力のある音で叩きたいし、ベースはブイブイ弾きたい。
ギターリストは当然、バキーンと歪ませたい。
そこに対抗するかのように、キーボードは突き抜けるような音色をかぶせてくる。
つまり、下から上までまんべんなく「デカい音」が出ていて、音が目に見えるなら、もう空間中音で充っち満ち、というわけです。
ここで、歌い手ができるチョイスは、一昔前までは3つだけでした。
1. 「ほどよい聞こえ具合」を得られるまで、エンジニアさんやメンバーと調整を重ねる。(または、やりあう)
2. 「ほどよい聞こえ具合」を得るために、「適正な声の大きさ」以上の「でかい声」を出す。
3. 「ほどよい聞こえ具合」をあきらめて、勘で歌う。
まぁ、たいがいは、モニター調整をどんなにがんばっても、自分の声が全然聞こえてこない、メンバーに言っても、「声量がないからだ」とか「こっちは歌、聞こえてるよ」なんて言われる。
だから、「でかい声」で歌うようになって、どんどんピッチがあたらなくなって、ますます声が抜けなくなって、最後は「ほどよい聞こえ具合」を犠牲にすることになる。
「尋常じゃなく声がでかい」と言われている私でさえ、「ほどよい聞こえ具合」が得られないままステージをやって、後から自分の歌を聴いたら、穴があったら入りたいと思うくらい、がなり立てていたり、ピッチも当たってなかったり、なんてことは、もう死ぬほどよくあります。
これは、もうバンドマンみんなにお願いしたい。
ヴォーカリストの歌がイマイチだなって思ったら、まず、「ちゃんと聞こえてる?」って気にしてあげて欲しいんです。
こんなストレスを緩和するために、近年はイアモニという新たな選択肢があるわけですが、まぁ、これはこれで、ライブハウスレベルだと、調整も難しそうです。
声が出るってことと、でかい声で歌いたいかどうかってことは別のことで。
「私は囁く声もちゃんとモニターが拾ってくれるように調整できて、はじめて気分よく、いい歌が歌えるんだよね」。
そんな話を、昨日、バンド仲間としていたら、爆音ギターリスト、ジェフ夫さんが、
「俺も同じだよ。そーっと弾いても細かい音が全部聞こえるように調整したいんだよね」と、ぽつり。
頼むから、ギターの人は、そういうの、ちょっとあきらめてください。
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