大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

音楽家として生き抜く力

   

「野良猫を拾って一番困るのは、その猫が子どもを生むことだ。」

ハインラインの小説『ダブルスター』の主人公のことばです。

物語の中では、面倒なことをひとつ引き受けると、
次から次へと面倒なことに巻き込まれる、
というような意味で語られていました。

なにかを思いついて、それを行動に移そうとするとき、
この「子猫」が、イヤと言うほど生まれてきます。
 

例えば、ライブハウスでライブすること、ひとつ取っても、
自分が主催したり、バンマスをしたりすれば、
その作業量は驚くべきものです。

 

ライブハウスを探す、
メンバーのスケジュールを合わせる、
ライブをブッキングする、

なんてのは、ほんの入口で、

告知する、
チラシをつくる、
あちこち宣伝する、

でもって、人が集まってくれることになったら、なったで、

「チケットは?」という問い合わせや、
「席の予約は?」や、
時には「何時頃までやってる?」のような質問に、
返信することになります。

 

さらには、
リハーサルのスケジュールを決めて、
スタジオを探して、予約して、
メンバーに連絡して、
選曲して、
譜面つくって、
メンバーに送って、

 

お店からは・・・

入り時間どうします?とか、
物販どうします?とか、
ステージプランはどうなります?とか、
機材はどんな感じでしょう?
・・・などなどの問い合わせが来るし、

当日のタイムテーブルや、
曲順表や、物販関係や、チラシやアンケートの準備して、
照明やPA用の指示書をつくって、

集客の心配をして、
お金の心配をして、
当日の駐車場の心配をして・・・

気がつけば肝心の自分の練習が全然できていなかったり、
前日まで衣装も決まっていなかったり・・・
などということにもなりかねません。

 

人に呼んでもらうライブにばかり出ている人や、
バンマス的な仕事をした経験の人には、
きっと、わかり得ないことでしょう。

 

これがツアーだったりすれば、
ここに移動やホテル、食事の心配が入って来ます。
予算の心配ももっとシビアになるでしょう。
バンマスとツアコン業務をかねるようなものです。

 

これら一連の作業の流れは、
メジャー系の大きなツアーでも、
ちっちゃなバンドでも、ほとんど変わりません。

会場や、動員や、スタッフの人数や、機材や、
予算などなどの規模が違うだけです。
基本はみんなおんなじなのです。

むしろ、大きなツアーになると、
役割分担がハッキリしてきますから、
ひとりが何もかもやらなくちゃいけない、
などと言うことにはなりません。
 

規模が小さいほど、
メンバーやスタッフが少ないほど、
そして、一人ならなおさら、

プレイそのものではなく、
プレイができる環境をつくることこそが、
音楽家としての力の見せどころ。

 

これは、音楽活動全般に言えることです。

 

実力はある、
パフォーマンスもかっこいい、

しかし、活躍できる場所、
パフォーマンスできる場所を自分自身で切り開けなければ、
それを人に見せる機会はなかなかやってきません。

 

あれもやりたくない。
これも向いてない。
面倒なことは無理。。。

そうやって、誰かが誘ってくれることを待っているだけでは、
結局なにひとつ動きません。

 

次から次へと生まれてくる面倒なことを
ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、
自分が生き生きと活動できる環境を整えていくこと。
その飽くなき情熱とエネルギー。

それこそが、音楽家として生き抜く力なのではないでしょうか。

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