いわゆる「事務所」ってなにしてくれるの?
2016/03/03
ミュージシャン志望の若者たちと話していると、
「事務所」ということばが頻繁に登場します。
「あの子は事務所に入ってるから(私たちとは違うんで)」
「(オレたちのバンド)今、事務所探してるんですけど、なかなかいいとこがなくて」
では、若者たちが夢見るように「事務所に入る」と、
いったいどんな風に世界が変わるのでしょう?
今日は、「いわゆる『事務所』ってなにしてくれるの?」
ということについて、私個人が知っている範囲で書いてみましょう。
事務所側が何を提供してくれるかは、
所属事務所によっても、また所属アーティストや育成アーティストなどなど、
それぞれの立場によっても、全く違うようです。
たとえば、大手音楽事務所の場合、
育成期間中のアーティストのデモ制作、ライブ支援、
ボイストレーニングやダンス、楽器などのレッスン費用、
地方に住んでいる場合は上京のための交通費、宿泊費などを負担してくれたりします。
優秀なディレクターがついて、アレンジなどもしてくれます。
要求されることは、いい曲を書くこと。
いいライブをすること。
いいことずくめのようですが、
移動ふくめ、かなりハードなスケジュールをしっかりこなしつつ、
成長することが求められ、
一定期間でレコード会社と契約が決まったり、
ファンが増えたり、他の展開が見えてきたりという風にならないと、
「卒業」となる、実に厳しい、過酷な世界です。
条件のいい事務所ほど、
育成アーティストになるためのオーディションやコンテストの競争率は激しく、
育成期間中にもちょこちょこと、社内オーディションのようなものがあって、
成長が見られないとアウトとなってしまうところも多々あります。
事務所によっては、歯の矯正費用やトレーニングのためのジム費用なども
負担してくれるところもあるようです。
ただし、それは「見た目にうるさい事務所」であるという証拠。
体重が1㎏増えただけでも、呼び出されて叱られたり、
毎週、マネージャーさんの目の前で体重計の乗らされたり、
勝手に髪の毛を切ってはいけないと言われたり、
彼氏や彼女と別れさせられたり・・・
家賃や生活費の補助をしてくれる、ありがたい事務所もありますが、
そうした事務所は、たいがいがバイト禁止。
もしくは突然の仕事にも最優先で対応しなくてはいけないため、
バイトをするのは実質不可能だったりもします。
もちろん、上記のような条件のいい事務所は業界の中でもほんのひと握り。
過酷なオーディションに勝ち抜いた、運と実力の持ち主でなければ、
なかなかお世話になることはできません。
最も多いのは、
デモ作りやライブ支援に特化した協力だけをしてくれる事務所。
「いろいろと手をかけてあげたいけれど、自分を磨くのは自分でがんばってね」
というのが本音でしょうか。
条件はそれほどよくなくても、
音楽好きでセンスのいいディレクターがいたり、
個人的に感情移入して面倒を見てくれたりと、
人間関係が構築しやすい、音楽的にもおもしろいことができる、
さらに、長期にわたって面倒を見てもらえる、等のメリットがあります。
むしろ、この規模の事務所の方が居心地がいいと感じるアーティストも多いようです。
さて一方、若者たちの「事務所に入りたい」という気持ちを利用して、
一儲け企む悪い輩が、実は、結構います。
「キミは所属オーディション、後1歩だったから、
うちのスクールで1年間勉強して、再度オーディションを受けてみない?」
「オーディションの準合格者は特別に事務所の育成システムで勉強できますよ。」
などと言って、スクールだの、育成システムだのの料金を取るところもあるようです。
そこまであこぎでなくても、
「うちで面倒見るから」と口約束で、なんにもしてくれないくせに、
何か美味しい話が来たとたんに、
「うちの所属アーティストだから」と権利を主張するところや、
路上ライブをやれ、演歌を歌え、アニソンつくれ、ロックバンドつくれ、
アイドルやれ・・・などなど、
次から次へと、本人の主張などお構いなしに無理難題をふりかけて、
言うことを聞かないと放置、というところもあったりして。
実際、話を聞くと、腹が立つことが多いのが実情です。
「事務所に入りたい」と焦るよりも、
どんな活動をしていきたいのか、明確に見極める。
できることは自分たちでどんどんがんばる。
その上で、自分たちのやりたいことを手伝ってくれる協力者を探す。
それが事務所とのよいご縁を運んでくるのではないでしょうか?
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