大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「夢に向かって邁進する」は美徳でもなんでもない。

   

学生時代、本の取り次ぎ店にバイトしていました。

バイトは朝の9時から夕方5時まで。

本が大好きだった私は、
春休み、夏休み、冬休みと、大学が休業期間に入ると、
毎回必ずそこでバイトをさせてもらっていました。

 

実家のあった品川から、神田神保町までの往復時間を入れて、
(お金がなくて、ロードランナーでバイトに通っていた時期もあります。)
バイトに取られる時間は10時間×週5.5日。

その以外の時間に、歌のレッスンがあり、
ピアノレッスンがあり、ダンスレッスンがあり、
バンドの練習があって、

レッスンも練習もないときは、
家に帰って練習するか、曲や歌詞を書くか、
本屋に寄って、本を見て回るか・・・
 

それが私の日常で、いかに、スキマ時間をつくらないように、
自分の夢に向かって時間を最大限に使うかということが、
当時の(今もですが)ひとつの目標でもありました。

 

同じバイト先に、実家住まいで花嫁修業中の、まぁ、今で言うフリーターのような、
20代半ばくらいの女性がいました。

 

いつもほんわかした、優しい空気感のある人で、
私は彼女が大好きでした。

 

あるとき、私が、毎日の暮らしぶりを何の気なしに話したところ、
彼女はふと、こう言ったのです。

「あらまぁ、な〜んて毎日、盛りだくさんで忙しいんでしょう。」

 

そのとき、生まれて初めて、
「あ。何にもしないっていう暮らし方もあるんだ。」と気づいたのです。

 

当たり前のことのようですが、
私のように生きて来た人間にとっては衝撃でした。

そっか。
朝起きて、バイト来て、帰って、寝る。
それ以外、何にも予定のない毎日というのが存在するんだ!

 

なんてゆとりのある、なんてゆったりした時間だろう。
だから、彼女のように、優しい空気感が出せる人になれるんだ。。。

 

言うまでもないことですが、人間の価値観はひとつだけではありません。

 

夢に向かってがつがつ生きる。
一分一秒も無駄にしないで目標に向かって邁進する。

そんな生き方は、別に美徳でもなんでもない。

 

それはひとつの生き方であるというだけです。

 

 

学生たちを見ていると、
なんだか、ひとつの価値観にとらわれている気がするときがあります。

つまり、「がつがつ邁進」「ビッグになるぜ」というマインドを持つのが正しくて、
がんばっている人はすごい。前進している人こそカッコいい。

という価値観です。

 

あのね〜。講師やっているんで、練習なんかしなくていいよ、とは言えません。

高っい高い授業料を払って、いろんなことを投げ打ってやってくる、
ポテンシャルもやる気もたくさんある人に最高の教育を、
というのが音楽大学というものと信じているので、
もちろんこちらも、それなりに厳しくやります。

でもね。そもそも、ほんわか、優しい毎日に幸せを見出している人が、

「がつがつ邁進」的価値観に自分の価値観を転換しようとするのは苦痛なはず。

 

それは、私にとって「ゆったりのんびり優しい人生」があり得ないのと同じくらい、
あり得ないし、苦しいはずです。

 

インターネット、SNSのおかげで、
人々の嗜好は多様化してきたと言われていますが、
今まで以上に、価値観は似かよってきていると思えてなりません。

人に注目されること。評価されること。
お金をたくさん持っていること。
有名になること。
成功すること。
可愛く見られること。若く見られること。。。

目標を持つのは素晴らしい。

そういう生き方はカッコいいかもしれない。

 

でも、がつがつ生きない。
今の自分の人生をゆったり楽しむ。
毎日、時の流れるのを味わう。

 

そんな生き方だって、絶対カッコいい。

 

春が来ました。

自分にとって、本当はどんな風に生きるのが心地よいのか、
じっくり考えてみたいシーズンです。

15135417_s

 - Life, 夢を叶える

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


  関連記事

「私はドジでのろまなカメです」

「私はドジでのろまなカメです」   これは、『スチュワーデス物語』とい …

自分の人生の価値を過小評価しない!

人にものを教える仕事がしたいと思ったら、 真っ先にすべきは、自分のプロフィールを …

「所詮同じ人間」という前提に立つ。

誰かにできて、自分にできないことを、 生まれや育ちの違いのせいにしてしまうのは、 …

すべては「可能」であり、「正しい」は自分が決めるのだ。

「クラシック」という音楽のイメージに、 ヨーロッパ的華やかさと優雅さを重ね、 妄 …

なんだ、カラオケって、楽しいじゃんっ!

あたくし、今さら言うのもなんですが、 実は、カラオケが大の苦手でした。 これ、ミ …

「失敗しても、それでいいんだ」

「失敗しても、それでいいんだよ」   ここぞと言うときに、人は、さまざ …

最後は「自分の声」を聞くのだ。

「MISUMIサンはね、 もっと、自分じゃ恥ずかしくって赤面するくらい、 下世話 …

ねつ造できない感動が、人の心を動かす。

How じゃなく、Why。 このブログでも幾度となく取り上げてきているこの命題は …

つい、この間まで二十代だった気がする?

「先日、MISUMIさんがUPしてたママさんたちのコーラス、 すごくカッコよかっ …

「不完全なこともすべて、自分の完全性の一部。」

「不完全なこともすべて、自分の完全性の一部。」(2015/09/10 twitt …