Obsession〜頭にこびりついて離れないもの〜
プロとアマチュアの分岐点はどこにあるんでしょう?
何かが好きで、夢中になることは、どんな子どもにも起こり得ます。
テレビを見て、歌手に憧れた。
野球チームに入ったら、うまくなりたくてたまらなくなった。
歴史のマンガを読んで、歴史にハマった・・・・
その時点では、どんな子どもの実力もたいして変わらないものです。
もちろん、多少の素養があるから、そのものに惹きつけられることが多いので、
他の子と比べて著しくその能力が劣ることはありません。
しかし、はじめた瞬間から周囲が驚くほどの才能を発揮する子どもなんて、
極極一部の大天才しかいないでしょう。
この、どんぐりの背比べ状態から、徐々に周囲と差がついていくかどうかは、
単なる「好き」が「オブセッション(Obsession)」、
つまり「頭にこびりついて離れない状態」に変わるかどうかにかかっています。
そもそも、何かをはじめる、続けることには大小さまざまな障害がついてまわります。
なにかを極め、プロになった人たちと話していると、
その尋常じゃないオブセッションに笑ってしまうこともあるくらいです。
ギターリストのH氏は、高校時代、エレキギターを買うために、毎朝新聞配達をしたといいます。
また、当時はネットどころか、
テレビなどで外タレ(外国人ミュージシャン)の演奏を見る機会もなかったため、
ギターの奏法に関する情報が圧倒的に不足していました。
そこで、音楽雑誌であこがれのギターリストの写真をみつけ、
そのたった一枚の写真を分析し、創造力と推察力を駆使して、
オープンチューニングというものの存在を、文字通り「発見した」そうです。
また、S氏は、生まれた街に、バンドのリハーサルをするようなスタジオがなかったため、
近隣のビルの屋上を借り、毎日リヤカーで機材を運搬しては練習していたといいます。
お気に入りのギターのフレーズがどうしても聞き取れなくて、
レコードの溝がすり減ってしまった、などという話は、プロならごくあたりまえにする話です。
私自身、1枚のアルバムを最初から最後まで、完璧に歌えるようになるまでの約1年間、
毎晩アルバム1枚をなんどもかけ、歌い続けたという経験があります。
結局、その経験がさらに自分のオブセッションに火をつけ、
その後もありとあらゆるアルバムを全曲、完コピしました。
ミュージシャンだけではありません。
中学時代からビジネス書が大好きで、そのたぐいの本を見かけるたびに、
勉強そっちのけで、すべて読みあさったという、ビジネス書のカリスマがいます。
雑誌でも、テレビでも、書籍でも、紹介される、ありとあらゆるお片付けの方法を
すべて試したという、お片付けのカリスマもいます。
ここで大事な事は、みんな誰に頼まれたわけでも、命じられたわけでもない。
自分のオブセッションに突き動かされ、「やらずにいられなかった」のです。
現代の子どもは情報が多く、環境的にも恵まれすぎているから、
なかなかレベルがあがらないといわれますが、私はそうではないと思っています。
情報が多く、環境に恵まれているから、それほど真剣にやりたいと思わなくても、
お手軽にはじめられる。
誰でもそこそこのレベルに到達できる、というだけです。
違いはその先にあります。
オブセッションに心奪われたら、お手軽に手に入る二次情報では飽き足らず、
自分の五感を使って、片っ端から検証したくなります。
どんなに環境的に恵まれ、次々と何かを与えてくれるおとなが周囲にいたとしても、
そんなことでは追いつかないくらいのオブセッションに次から次へと襲われ、
いてもたってもいられなくなるはずなのです。
時代のせいで、本物のプロフェッショナルが育たないのではない。
自分のオブセッションを徹底的に追求できるほどの、
情熱を持ち合わせている人間の比率というのは、いつの時代でも変わらないだけなのです。
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