外しちゃいけないフレーズがあるから「ポップ」なんだ。
10年ほど前のこと。
英語教材のレコーディングで、
外国人のシンガーたちの通訳件、
ヴォーカル・ディレクションを担当することになりました。
兄と弟、そして末娘というアメリカ人の3人兄弟が、
懐かしのポップスを次々歌う教材に合わせて、
英語の歌を勉強しましょうという企画。
オリジナル音源は原盤権の関係で使えないから、
「なるべくオリジナルに忠実に歌ってもらってください」が、オーダーでした。
個人的に大好きな曲のオンパレードだった上に、
得意の「完コピ」中心のディレクション。
シンガー兄弟は、みな明るくて、気さくで、
本当に楽しいお仕事でした。
懐かしのポップスといえば、絶対はずせない名曲、
モンキーズの”Daydream Believer”も、
もちろん、そのレパートリーにありました。
モンキーズの大ファンというわけではないけれど、
他人事とは思えない歌詞と、
ヴォーカルの独特の声と歌い回しが好きで、
耳にたこができるくらい聞いた楽曲です。
その曲の担当になった兄弟の一番上のお兄ちゃん。
(ここでは仮にジョンくんとします。)
器用に声までマネして、雰囲気もバッチリでした。
ところがです。
肝心のサビの2行目のフレーズが、なんか違う。
“Oh , what can it mean?”の最後の”n”の後ろの、
「うんにゃ」みたいなコブシがないのです。
「ジョン、全体にすごくいい感じなんだけど、
サビの歌い回し、一回確認してください」
トークバックでそう言って、オリジナルを流せば、
モンキーズのヴォーカリストは、
いつものように、思いっきり「Oh what can it meannnnnnnっ!」
と歌っています。
そうそう。
これこれ。
この「うんにゃ」。
ところが、ジョンくん、
私の言っている意味が一瞬わからないようすで、
「フレーズ、別に変わったところないけど?
MISUMIにはどう聞こえるの?」
・・・
結局、私が歌って聞かせて、
彼が、は〜ん。。。そういう意味ね、となって、
一件落着したのですが、
私にとって、DayDream Believerといえば、この「うんにゃ」。
ここが歌いたくてサビを歌うようなものだったわけで、
その存在にすら気づかない人たちがいるの不思議で仕方ありませんでした。
「ポップスって、演奏するときに外しちゃいけないポイントがあるんだ。」
とはジェフ夫さんのおことば。
耳にたこができるくらいレコードを聴いている人たちにとって、
(ここではあえて、「レコード」です)
無意識に期待しているフレーズがあって、
ライブでそれが出てこないと、なんかちょっとがっかりする。
だから、人のカバーをやるときは、
他はどんなに自由にやっても、
そのツボだけは外すべきではない。というのがジェフ夫さんの意見。
例えば、
ビートルズの『Come together 』では、絶対「しゅっ」ってして欲しいし、
イーグルズの『ホテルカリフォルニア』のイントロ終わりは、
絶対にタムで「どんどん」して欲しいし、
ローリングストーンズの『ジャンピングジャックフラッシュ』では、
絶対の絶対に「わんつー」して欲しいし・・・
(一個もわからないという若者は、Youtubeでお勉強してください)
まぁ、結局モンキーズの『Daydream Believer』に関しては、
つい最近、ご本家もライブでは「うんにゃ」していないと知って、
ショックを受けたという落ちがあるのですが。。。。
でもね。
人の耳に残るフレーズがあるってことは、
「だからポップだ」ということ。
あえて外すのならともかく、
無神経に、適当にカバーすると、
曲の美味しいところが全然ないような、
味気ないカバーになっちゃうんですよ。
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